醜い心の子
「人の美醜ってさ、何を基準に決まっているんだろうね。あぁ、今回は日本人限定ね、外国の文化まで含めちゃうとさすがに話がまとまらないからね。いわゆる顔が良いってやつは何が基準で決まるのかを知りたいのさ」
「環境でしょ」
今日も放課後の教室、二人きりで会話をする。
相も変わらず、彼女はそっけない。
彼女の前の席に座り窓を開ける。
外からは運動部の掛け声がこだまし、青春の香りを漂わせている。
青春ってなんだろうね?
今度また別の機会に白石さんに聞いてみよう。
飛び飛びになる思考を食い止めて、彼女を見つめる。
うーん、面がいい。
黒髪を春風になびかせながら、切れ長の目でページを追う彼女を見て改めて思う。
白く綺麗な肌にスラッとした体形、非の打ちどころのないクールビューティだ。
まぁ、だからこそ誹謗中傷の的になるんだろうね。
女子の妬み僻みは怖いねぇ。
いかんいかん、また脱線した。
「環境か、面白い考え方だね。それまで育ってきた周りの人間によって変わるってことでいいのかい?それとも、人的要因以外で決まるってことかな。あんまり思いつかないけど、好きだった漫画とかから影響を受けるって感じかな?」
「それでいいんじゃない」
「投げやりだね、もっと意見の交換をしたいんだけど」
「私が何を持ってるか見えないの?」
気だるげに小説を掲げて見せてくる。
どんな本を読んでいるんだろうな。
文庫カバーで覆われていて内容は分からないけども、これで官能小説でも読んでいたら面白いのに。
「いやぁ、家に帰らず、わざわざ学校に残っているから、話がしたいのかなぁって」
「普通の人は本を読んでいる人には話しかけないわ」
「そう、じゃあいいんじゃないかな。僕らは普通の人間とは違うわけだし。それに、君とお喋りしたい気持ちの方が強いのさ」
「私の気持ちの話をしてるんだけど」
彼女からため息がこぼれる。
本をパタンと閉じカバンにしまい、頬杖をついて窓を見る。
どうやらお喋りしてくれる気分のようだ。
「それで、白石さん的に環境はどんな感じで美醜に関与していると思うんだい。例えば、昨日僕の顔に90点も大甘採点してくれたのは、どんな環境が影響しているのかな?」
「親やテレビに影響されるだけでしょ。周りがカッコいいって言ったものをカッコいいと思うようになる、それだけよ」
「お、つまり僕に似た顔が君の過去にいたのかな。それなら納得だ。僕は自分の顔をカッコいいとは思わないけど、それは周りの大人が僕の顔を、美形だと思わない人の集まりだったってことだ。逆に君の環境には僕の顔がイケメンになるような刷り込みがあったわけだ。なるほどなるほど」
「あなたの顔、別にイケメンではないわよ」
無表情で急になんてことを言うんだ。
持ち上げられていた分、落とされた時のダメージが大きくなることを知らないのかな?
おおげさに傷ついたリアクションをして机に倒れこむ。
「とても傷ついたよ。90点も僕にぬか喜びさせたかっただけなんだね。これじゃあ僕は滑稽なピエロじゃないか。少しは自分の顔に自信が持てそうだったのに」
「そう言うならもう少し身嗜みに気をつけなさい」
そう言うと、彼女は突っ伏している僕の頭を右手で触る。
何回か僕の髪に手を通しては指に巻いて遊んでいる。
最後の一回の時に、少し強めに引っ張られる。
「痛いなぁ、急にどうしたのさ」
「あなたの顔に点数をつけたのはね、顔が左右対称なのと髪がキレイだからよ」
「あぁ、確か本能って左右対称性に美しさを感じるだっけな。おや、それなら僕はイケメンに入るんじゃないかな?男なんて顔が整っていて髪に清潔感があればイケメンと言っても過言ではないと思うんだけども」
「あなたの価値観がどうやって築かれたか気になるわ」
「お、聞いてくれるのかい? 全然僕は話すけどね、君の方から乗り気になってくれるとは嬉しいなぁ」
「やっぱり気にならないわ」
心変わりが激しいね。
女心と秋の空と言った昔の人は、きっと今の僕と同じ気分だったに違いない。
いうほど、秋の空って移り変わり激しいか?
またバカみたいなことを考えていると彼女はカバンを持ち帰ろうとする。
今日は僕と一緒に帰る気分ではないらしい、僕は手を振って見送る。
「あぁ、一つだけ聞きたいのだけれど」
「白石さんになら一つと言わず何個でも答えるけども?」
教室の扉に手をかけ、彼女が振り返る。
なんだろう、好きなタイプとか聞かれるのかな。
お別れのために振った手を適当に動かしながら彼女の言葉を待つ。
「その、髪ってなにか特別な手入れしているの?」
「いや、普通にリンスインシャンプーしか使ってないけど」
「-40点ね、さようなら」
ガララと強めに扉が閉じられる。
おっと、90点もあった顔面点数がいつの間にか10点になってしまった。
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