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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年一学期

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18/74

約束

「ひどい目にあったよ……」

「よかったじゃない、可愛かったんでしょう?」

「顔の良し悪しは僕にとって重要じゃないよ。僕の話を聞いてくれるかどうかが大事なんだ」


 昨日の出来事を思い返す。

 僕の話に耳を貸さず、街中を引きずり回した恐怖のギャル。

 めちゃくちゃ疲れた。

 カフェのテーブルにぐったりと伏せる。

 今日は病み上がりなので、店長に顔を見せるついでに客として来た。

 コーヒーを飲みながらゆっくりしていたら、白石さんも来たので相席させてもらっている。

 お見舞いの礼もしたかったので丁度よかった。

 白石さんは無言でチーズケーキにフォークを動かしている。

 この反応は、相当気に入ってもらえたようだ。

 彼女のお菓子への反応は三つある。

 一つ目、改善点を指摘する。

 見た目が悪いだの生地が硬いだの甘さが足りないだの、彼女の合格点に至らなかった点を教えてくれる。

 彼女の甘味に対する強いこだわりを感じる。

 僕は基本的にバカ舌なので、彼女のアドバイスは全面的に受け入れている。

 二つ目、褒める。

『スポンジはしっとりときめ細かく、舌に吸いつくような食感。生クリームはコクがあるのに、後味はすっきり。苺の酸味との対比も計算されているわ』

 ショートケーキを作った時に、彼女から言われた言葉だ。

 急に漫画みたいなレビューをしてくるので、褒められた嬉しさよりもビックリする気持ちが勝る。

 レシピ通りに作っただけなので、計算とかは一切ないのに。

 まぁ美味しかったのならなによりだ。

 三つ目、無言で食べる。今みたいにね。

 最初この反応をされた時、言葉も出ないほどヒドイ味なのかと思った。

 ただそうではなく、純粋に満足している時は喋らないようだ。

『また今日のティラミスが食べたいわ』

 一人で反省会をしていた時に、スマホに送られてきたメッセージだ。

 直接言ってくれればいいのになぁ。

 恥じらいって考えると可愛いリアクションだよね。

 それを本人に伝えたら、二度とメッセージが送られることは無くなってしまったけれど。

 今日のリアクションは、三つ目の反応かな。

 小さめに焼いたチーズケーキのホールが、みるみる減っていく。

 よくホール丸ごと腹に入るなぁ、僕は甘いものそんなに食べられないよ。

 あまりにもジロジロと見ていたからか、コホンと咳ばらいをされる。


「さっぱりしたのも、その女の子のおかげ?」

「そのギャルのせいだね」


 涼しくなった首元をさする。

 やれ雑貨屋だのやれブティックだの振り回された後に、無理矢理美容室に連れていかれたせいで髪を切る羽目になった。

 元々ギャルの予約が入っていたらしく、その時間を使って僕が切ることになった。意味が分からん。

 どうして美容師ってあんなに喋りたがるんだ?

 可愛い彼女さんですね、思い切ってバッサリ切りませんか、好きなアイドルはエトセトラエトセトラ。

 髪を切りながら、よくあれだけ口が動くものだ。


「振り回される側になった気分はどう?」

「二度とごめん被りたいね」

「少しは私の気持ちが分かったでしょう?」

「......僕そんなに白石さん振り回してなくない?」

「本人は無自覚なものよ」


 ただお喋りしてるだけなのになぁ。

 最近で言えば、僕の方が白石さんに振り回されてるような気がする。

 石井君関連で僕がどれだけ苦労しているか、彼女は分からないに違いない。

 何せ、彼の中で今僕は二股野郎になっているに違いない。

 白石さんと付き合っていながら、ギャルに浮気する遊び人。

 最低過ぎるな、両方とも事実無根だけど。

 夏休み明け、学校に行くのが今から億劫になってきた。

 もう来週には学校が始まる、彼の誤解を解くところから始めなきゃいけない。

 この夏休みを振り返る。

 カフェでバイトしたり車に跳ねられたりギャルに巻き込まれたり......あれ? 良いこと少ないかも?

 しょっぱい夏休みだ。

 白石さんが見舞いに来てくれたこと以外、高校生らしいイベントは無かったかもしれない。


「それじゃあ今度は意識的に振り回しちゃおうかな」


 たまには、青春っぽいことしちゃおうかな。


「今週の日曜日にある夏祭り、二人でいようよ」


 車道も歩行者天国にし、多くの人が踊り歩くこの街の夏での一番のイベント。

 僕は一回も行ったことないけど、たまには参加してみるのもいいだろう。


「いやよ、あんな人混みの中」

「ですよね、僕も正直人混みは嫌いだし」


 この拒否は想定内。

 ポケットから鍵を取り出して手で弄ぶ。

 参加するといっても、あくまで僕ららしく、だ。


「店長からカフェの合鍵貰っててね、夏祭りの時に使っていいって許可もあるんだ。夏祭りの音を聞きながら、二人でぼんやりとしようよ」

「店長さんは居ないの?」

「奥さんと屋台回るらしいよ。二階にある二人の家に上がらなきゃ、一階は自由に使っていいってさ」


 後片付けはしっかりしろよと、ニヤニヤ笑う店長の顔を思い出す。

 何を期待してるのやら。


「最近暇な時間に、コーヒーの淹れ方も教えてもらっていてね。古いコーヒー豆を練習用に淹れさせてもらってるんだ。精一杯のおもてなしをするから、一緒に夏祭りを過ごさないかい?」

「......三つ条件があるわ」

「僕にできることなら、謹んで受けさせてもらうよ」

「絶対に人混みに行きたくない」

「それは僕も行きたくないから守るよ。夏祭りの雰囲気が楽しめればいいからね、店の中でゆっくりしよう」

「あまりうるさくしないで」

「善処するよ、普段からうるさいつもりはないけど。それで、最後の条件は?」

「……今日のチーズケーキが、もう一度食べたいわ」


 おや、想像以上に気に入ってもらえたようだ。


「お安い御用さ。喜んで作らせてもらうね」

「もうちょっと量があると嬉しいわ」

「......よくお腹に入るね」

「甘いものは別腹なのよ」

「そうかなぁ......」

「そういうものよ」


 彼女はそういって立ち上がる。

 今日はお開きかな。


「それじゃあ、来週は来てもらえるかな?」

「......ケーキ、楽しみにしてるわ」


 そう言い残して帰っていった。

 本命は夏祭りのつもりなんだけどな、これは失敗できないや。

 シフト増やして練習させてもらおうかな。


「店長、明日から土曜日までシフトって入れてもらえます? あと甘いものに合うコーヒーの豆教えて貰えると——」


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