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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年一学期

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微糖な関係

 僕を取り巻く環境は一変した......とはならなかった。

 石井君がやらかして、僕はもっと針のむしろになると思ったが、そうはならなかった。

 なんでも、変な噂の出所を一つ一つ彼が弁明して回っているそうだ。


「俺の責任だから」


 彼はそう言って、僕ら(ほとんど白石さん)の悪評を消して回っているらしい。

 責任感強いなぁ。

 白石さんの悪評なんて、彼女がコミュニケーションを拒絶していることが原因なのに。

 まぁ彼の頑張りのおかげで僕に向けられる視線はだいぶ減った。

 男子からは生暖かい目で見られるようになったことや、今まで放課後に教室でたむろしていた男子陣がすぐ帰るようになったのも、気のせいだと思いたい。

 たまに石井君が顔を真っ赤にしてもじもじしながら  


「村瀬君は、その、どこまでいったの?」


 とか聞いてくるのをやめてくれればほぼ元通りだ。

 意外と純情だなぁ。イケメンなんだから、もっと遊んでると思ったよ。

 どこまでも何も、付き合ってないんだから何もないよ。


「あなたは楽そうでいいわね」


 いつもの不愛想な顔を三割増しぐらいきつくした白石さんが僕を睨む。

 彼女の環境は僕と違い、大して変わっていない。むしろ、ちょっと悪化したかも。

 何せ、彼女のためにイケメンが動き回っているのだ。

 中には石井君から直接注意された女子生徒もいるとか。

 そんなことされたら、もっとねっとりとした悪感情を持たれるに決まってるだろうに。

 現に今、日直の仕事を一人で押し付けられている。

 前までは、直接的な嫌がらせは無かったように見えていた。

 僕が見てないところで、細かい嫌がらせはされていたかもしれないけど。

 一人で黒板をきれいにしている彼女を、手伝うわけでもなく席でぼけっと見ていた。


「いやぁ、石井君は思った通り聖人だったよ。真のイケメンは責任感も人一倍だね......人一倍ってどうして二倍の意味で使うんだろうね?」

「その言葉が生まれた時の一倍が、二倍って意味を含んでいたからよ」

「博識だねぇ」

「こないだの国語の授業でやってたわよ」

「あぁ、そりゃ知らないわ。国語の授業はほとんど寝てるからなぁ」

「国語以外もほとんど寝てるでしょ?」

「おや、そんなに僕のことを常日頃見てくれているのかい? 嬉しいねぇ」

「黒板を見ようとしたら、あなたの席が嫌でも目に入るのよ」


 確かに、僕の席は前から三番目の真ん中あたりだから、最後列の白石さんの席からなら見えちゃうな。

 見られていると思うと少し恥ずかしいな、僕は寝ている姿を他人に見せたくないのだ。

 授業中に寝なければいい? 授業中に寝たことがない人間だけ私に石を投げなさい。


「あなた、それで期末試験は乗り越えられるの?」

「ふっふっふ。自慢じゃないけどね、これでも勉強は出来る方なんだよ。赤点を取ったことは人生で一度もないからね」

「それ、勉強はできる方って言わないわよ」


 僕のテスト結果はいつも平均点ぐらいだ。

 国語と社会みたいな、ある程度の暗記力があればなんとかなる科目は点が取れるんだけどね。

 英語とか数学みたいな日々の積み重ねが大切なタイプは苦手だ。

 継続的に勉強するモチベーションが湧かないんだよなぁ。

 正直、三年生になってから頑張れば間に合うと思っている。

 高校二年の最初の期末試験、進学先をある程度絞り始める時期になりつつある。

 我が高校は自称進学校で、無駄に偏差値の高い大学に行かせようとしてくる。

 高二でそんな高い志を持つような人間は、ちゃんと進学校選んでるよ。

 はぁ、ここでも将来を考えなきゃいけないのか。

 白石さんは司書になりたいって言ってたっけ?

 勉強はできるんだろうか?


「白石さんは期末試験対策はできてるのかい?」

「知らないの? 私は常に成績上位よ」

「テスト順位とか見たことないよ、自分が赤点かそうかじゃないかだけ分かってればいいんだから。ああいったものに一喜一憂するほど勉強に取り組んでいないしね。でも頭良いんだねぇ白石さん、天は二物を与え過ぎじゃないかなぁ」

「あなた違って真面目に取り組んでいるもの」


 自慢する様子もなく、淡々と彼女は話す。

 毎回高順位なのだろう、そりゃ嫉妬されるわ。

 競争力を煽るためか、我が高校は未だに試験結果の順位を掲示板に貼っている。

 勉強してない人間の晒し上げにしかなってないような気がするんだよなぁ。


「勉強、見てあげましょうか?」

「......見返りは何を期待しているのかな?」


 思いがけない提案に、自分の耳を疑う。

 正直に言って、テスト勉強なんてするつもりはない。

 平均点ぐらいなら今まで通り一夜漬けで乗り切れるし、そこまで偏差値の高い志望校があるわけでもない。

 ただ、白石さんからこういった提案があるのは初めてかもしれない。


「死にぞこない同士じゃない、親切を素直に受け止めたら?」

「君からそういったことを言われると、何か裏があると思っちゃうなぁ。先に言っておくけど、僕にできることはあんまりないからね」


 こういった冗談も珍しい。

 いや、最近も言ってたな、変態扱いされたわ。

 あれ、冗談だよな? 本気で変態扱いされたらどうしよう。

 まぁ僕の冗談はさておき、彼女の本当の姿はこっちなのかも。

 冷静に考えれば、出会ってから全然時間経ってないものな。

 始業式で出会ってから色々あったからなぁー。

 白石さんと話したり、白石さんと話したり、石井君に誤解されたり。

 ……いうほど何もなかったわ。

 そりゃ相手の事何も知らないわけだ、もっとアクション増やした方がいいのかな?

 ……相手を知って、どうするんだろうね?


「——ぇ、ねぇ。聞いてる?」

「おっと、自分の世界にこもってしまった。それで、もう一度言ってもらっていいかい?」


 ぱっと顔を上げる。いつの間にか、目の前に白石さんがいる。

 白い肌が少し赤く染まっている、日差しのせいだろうか。

 それとも、何か恥ずかしいお願いなのかな?


「あなたのパンケーキが食べたいわ」

「え?」

「カフェで作ってくれたパンケーキ、あれで手を打つわ」

「......甘いもの好き?」

「......えぇ、好きよ」


 彼女がカフェに来るときに、僕がサービスで作っているデザートはお気に召しているようだ。


「デザート一つで、一日勉強を見てあげるわ」

「まぁ、それなら僕にも出来るか」


 そういえばカフェにもっと白石さんを連れてこいって店長言ってたな。

 美人が見たいって言っていたし、ちょうどいいか。

 そのあと奥さんにしばかれていた記憶はなかったことにする。

 未だに店長の断末魔は耳にこびりついている。

 くわばらくわばら。


「じゃあ交渉成立ということで、店長にシフトじゃない日もキッチンを使っていいか確認を取るけど、ダメだったら諦めてね?」

「ダメだったら、あなたがシフトの日にいけばいいじゃない」

「僕が勉強できないでしょうが」

「ふふ、冗談よ。テスト範囲が発表されたら、勉強しましょうか」

「はい、よろしくお願いします先生!」

「......悪くない響きね」


 テンション高いな先生。

 そんなに甘いもの好きなのかな。

 自分が作ったもので誰かが喜ぶなら悪い気はしないが。


「それじゃあ、あのプリントを職員室まで運んでおいて」

「それは、日直の仕事じゃないの?」

「先生の言うことが聞けないの?」

「......せめて半分こにしない?」


 違うわ、体のいい雑用を手に入れたから嬉しいのかもしれない。


「甲斐性が無いわね、マイナス10点」

「......そのやりとりも、もう懐かしいね」


 顔の点数なのに、顔の要素以外で全点マイナスにされた。

 減点方式って良くないと思うね。

評価、感想、誤字指摘等していただけると嬉しいです。

日刊ランキングに名前が載っていて小躍りしました。

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