表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/244

BBQ帰りの夜道8

恐怖に押し潰されそうになりながら振り向くと、斎服を着込んだ宮司が立っていた。

白い装束が闇に浮かび上がり、険しい顔でこちらを睨みつける。


「貴様は神聖な場所で何をしているのだ!

神域での無礼は許さんぞ!」


大きな声で一喝された瞬間、あれほど口汚く罵っていた携帯がいきなり切れた。

境内に残響していた女の声は途絶え、夜の静けさが戻る。

俺はその場にへたり込んでしまった。

あまりの迫力に腰を抜かし、呼吸も乱れ、声も出ない。

ただ、石の鳥居の下で震えるしかなかった。

その様子を見た宮司は、険しい顔を少し緩めた。

「……こちらに来なさい」

声音は優しい。だが、断れない妙な迫力があった。

その声には怒りと慈悲が同居しているような不思議な力があり、抗うことはできなかった。

宮司はゆっくりと歩き出し、俺を社務所へと導いた。

竹林のざわめきが背後に遠ざかり、石灯籠の影が揺れる中、社務所の明かりがぼんやりと浮かび上がる。

木造の引き戸から漏れる灯りは温かいはずなのに、どこか異質な緊張を孕んでいた。


「ここで話を聞こう」


宮司の声は低く、静かだが、拒むことはできない。

社務所の中へ足を踏み入れると、畳の匂いと古い木の香りが広がった。

外の闇とは対照的に、そこは妙に落ち着いた空間だった。

だが、心臓の鼓動はまだ収まらず、さっきまでの女の笑い声が耳の奥に残響していた。

畳の上に正座し、震える声でこれまでの経緯を語った。

BBQ帰りに立ち寄った電話ボックスで見たもの、

高速を降りてから繋がり続けた女の声、

そして神社に滑り込むまでの恐怖。

「……神域を騒がせてしまい、本当に申し訳ありません」

深く頭を下げ、謝罪を申し入れる。

声は震え、冷や汗が背中を伝っていた。

宮司は静かに聞いていた。

表情は険しくもなく、ただ深い眼差しでこちらを見つめている。

沈黙が長く続いた後、低い声で言葉を発した。


「……よく土地神様の場所にたどり着けましたね。

その機転で、あなたは今、生きています。」


その言葉に、心臓が跳ねた。

冷や汗が止まらない。

真夏のはずなのに、寒気が全身を這い上がる。

背筋は凍りつき、呼吸は浅く乱れたまま。

「……生きている……」

その言葉の重みが、境内の静けさに溶けていく。

女の笑い声は途絶えたはずなのに、耳の奥にはまだ残響がこびりついていた。

宮司の眼差しは厳しくもあり、慈悲深くもあった。

その視線に射抜かれながら、俺はただ、冷たい畳の上で震え続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ