BBQ帰りの夜道2
夜更け、川辺のキャンプ場。
炭火の赤も消え、片付けの声が静かに響く。
コンロやクーラーボックスを車に積み込み、道の駅の駐車場に戻ると、仲間たちはまだ名残惜しそうに集まっていた。
「いやー、昼から夜まで遊び尽くしたな」
「次は泊まりでやろうぜ」
「俺はもう眠いわ、車で寝て帰る」
「俺は明日用事あるから帰るわ」
時計を見ると、てっぺんを超えていた。夏場の蒸し暑さがまだ残り、汗がじっとりと肌に張り付く。
それでも笑い声は途切れず、最後のだべりが続いていた。
「この時間になると、川の音がやけに大きく聞こえるな」
「夜は空気が違うんだよ」
「お前、そういうこと言うなって!」
やがて一人、また一人と「泊まって帰るわ」「またな」と言いながら解散していく。
駐車場に残る車の数が減り、静けさがじわじわと広がっていった。
俺は次の日に用事があるからと、夜中だが帰ることにした。
エンジンをかけ、携帯をBluetoothでカーナビに繋げて、大きめの音楽を流す。
低音が車内を震わせ、寂しさを紛らわせるように響く。
暗い山道を川沿いに走る。
窓の外は真っ暗で、街灯もまばら。川の音だけが遠くからざわめいている。
仲間の笑い声がまだ耳に残っているのに、車内は自分ひとりの呼吸音しかない。
ふと、視界の端に古びた電話ボックスが映った。
ガラスは曇り、街灯に照らされてぼんやりと浮かび上がる。
誰も使うはずのないその電話ボックスが、夜の山道にぽつんと立っている。
一瞬、目を逸らそうとしたが、どうしても視線が吸い寄せられる。
ガラスの奥に、赤い服の女性が立っていた。
肩までの髪が闇に溶け、顔ははっきり見えない。
ただ、赤い服だけがランタンのように鮮やかに浮かび上がっていた。
「……え?」
思わず声が漏れる。
音楽のボリュームを上げても、視線はそこから離れない。
受話器を持っているようにも見える。だが、耳に当ててはいない。
ただ、じっとこちらを見ているように感じられた。
ハンドルを握る手に汗が滲む。
「気のせいだ、気のせいだ」と自分に言い聞かせながら、アクセルを踏む。
しかし、バックミラーに映る電話ボックスの中――赤い服の影はまだ立っていた。
やがて車は川沿いの闇を抜け、街灯のある道へと出る。
音楽の低音が逆に不安を煽り、仲間と笑い合っていた時間が遠く感じられる。
一人で帰る寂しさと、説明できない不安が背中にじっとりと張り付いていた。




