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夜の神社3
鳥居の前に立ち、二人で軽く頭を下げる。参道の端を歩き、手水場で手と口を清めると、冷たい水が夜気と混じって肌を刺した。
静かな境内を進み、本殿の前に立つ。お賽銭を投げ入れると、硬貨の落ちる音が妙に響き渡り、誰もいないはずの空間に反響する。鈴緒をそっと握り、本坪鈴を鳴らすと、澄んだ音が夜の闇に吸い込まれていった。
二礼二拍手一礼。手順通りにお参りを済ませる。特に何も起こらない。ただ、境内の静けさは一層濃くなり、冷え込みが強まっていく。寒さに肩をすくめ、帰ることにした。
鳥居をくぐる瞬間、俺だけに、キュッという鞘がこすれるような「鯉口を切る音」が聞こえた気がした。刀の鞘から刃がわずかに抜かれる、あの鋭い音。思わず振り返るが、そこには何もない。闇と影だけが広がっていた。
女友達を送り届け、俺も帰路についた。何事もなく終わったはずの夜。だが、それから数ヶ月後、彼女との縁は唐突に切れた。
後で知ったことだが、その神社は……男女の縁を切ることで有名な神社だった。




