撮影帰りの山道
こちらのお話は、あくまで怪談です
似たシチュエーションのイベントなどがありましても関係はございません
そこのところご了承の上ご一読頂ければ幸いです
とあるイベントにカメラマンで参加した時の話だ。
午前中は古い町並みから撮影が始まった。石畳の路地に木造家屋が並び、瓦屋根の影が柔らかく落ちている。
「この路地、衣装の色が映えるね」
「背景が落ち着いてるからキャラが際立つ」
シャッターを切るたびに、衣装の鮮やかさが古い町並みに溶け込み、まるで時代を超えた舞台のようだった。観光客が通り過ぎるたびに視線を集めるが、笑い声が混じって和やかな雰囲気が続いた。
「次は角を曲がったところで撮ろうか」
「了解です!」
カメラマン同士も声を掛け合いながら、互いに構図を工夫していた。
昼過ぎには廃校になった木造校舎へ移動。入口の錆びた鉄扉を開けると、懐かしい匂いが漂う。
「黒板の前で立ってみて」
「はい!」
教室の机や廊下の長い影が、衣装の非日常感と不思議に調和する。
「この廊下、奥行きが出るね」
「ほんとだ、背景が効いてる」
体育館では、窓から差し込む光が床に広がり、衣装の裾が舞台のように映えた。
「ここ、光が綺麗だね」
「昼間は全然怖くないね」
笑い声が響き、撮影は順調そのものだった。
午後の最後は町並みの外れにある神社。石段を登ると朱塗りの鳥居が並び、昼間の光に照らされて鮮やかに映える。
「鳥居の前で撮ろうか」
「いいですね!」
衣装の色と鳥居の赤が重なり、写真は一層華やかになった。境内は静かで、木々の間から差し込む光が神秘的な雰囲気を作り出す。
「ここ、昼間は神聖な感じがするね」
「うん、むしろ落ち着く」
境内に響く笑い声とシャッター音。昼間は不安の影など一切なく、ただ撮影の楽しさだけが広がっていた。
やがて夕方。
町並みの観光客も減り、校舎の窓や神社の境内に差し込む光が赤く染まる。
「そろそろ片付けようか」
「うん、日が落ちると真っ暗になるって聞いたし」
機材をまとめ、車に積み込む。参加者たちは「今日はありがとう」「また撮ろうね」と声を掛け合いながら、それぞれ帰路につき始めた。
俺も帰ろうとしたが、片付けの最中に別のカメラマンと話し込んでしまった。
「今日の構図、あの路地のやつ良かったね」
「いやいや、体育館の光の使い方が上手かったよ」
互いに写真を見せ合いながら、撮影の工夫や機材の話で盛り上がる。
気づけば、周囲はすっかり暗くなっていた。神社の鳥居も町並みの屋根も闇に沈み、校舎の窓は黒い影のように見える。
「……やばい、もうこんな時間か」
慌てて会話を切り上げ、車に乗り込む。
カーナビを起動すると、行きと違うルートが表示されていた。
「……あれ?行きはこんな道じゃなかったはず」
少し違和感を覚えつつも、俺はそのままナビに従い、山道へと車を走らせることにした。




