深夜のコンビニで 3
仲間たちが次々と車を走らせて去っていく。エンジン音が遠ざかり、コンビニの自動ドアが開閉する音も途絶えると、駐車場は急に広く、静かになった。
残ったのは俺と、写真を撮った友人だけ。
「……なんか、急に静かになったな」
俺が口にすると、友人はスマホを握りしめたまま小さく笑った。
「さっきまで、やいのやいの騒いでたのにな。みんな怖がって帰っちゃった」
コンビニの明かりがぼんやりと駐車場を照らす。外灯はなく、闇はすぐそこまで迫っている。風は止んだまま、旗も動かない。
「もう一回見てみる?」
友人が画面を俺に差し出す。
そこには、川沿いの夜景。暗がりに立つ人影。
何度見ても、ただの影には見えなかった。
「……これ、やっぱり人だよな」
「でも、撮ったときは誰もいなかったんだって」
「じゃあ、なんだよ」
「わからない。けど、見れば見るほど……近づいてるように見えない?」
俺は思わず息を呑んだ。
確かに、最初に見たときよりも、影がわずかに大きく、前に出ているように見える。
「気のせいだろ」
「そうかな」
沈黙が落ちる。虫の声だけが響く。
そのとき、コンビニの店内で冷蔵庫のモーターが唸る音が一瞬止まり、場の静けさがさらに濃くなった。
「……なあ」
友人が低い声で言う。
「もし本当に写ってるなら、ここで見てる俺らのことも……見てるのかな」
俺は返事ができなかった。
ただ、コンビニの光に照らされた駐車場の端、闇の境目を見つめていた。
そこに何かが立っているような気がしてならなかった。
友人がスマホを閉じ、短く息を吐いた。
「……もう帰ろう。ここにいるの、嫌になってきた」
「……そうだな。もう遅いし」
俺も自然に頷いた。
「次は昼間に集まろう。明るいときなら、こんな話も笑い話になるだろ」
「うん。今日はもう十分だ」
二人はほとんど同時に立ち上がり、車へと歩き出す。
コンビニの明かりが背中を照らす中、風は止んだまま。
虫の声だけが、やけに大きく響いていた。




