深夜のコンビニで 2
コンビニの店内から漏れる光だけが、駐車場をぼんやり照らしていた。外灯はなく、闇の中に浮かぶ四角い光の箱。その周囲に数台の車が並び、ドアを開けて腰掛けた仲間たちが缶コーヒーや菓子を手に談笑している。
「で、どこで撮ったん?」
「川沿いの道。夜景がきれいでさ」
「川沿い?あそこってさ、昔から噂あるよな」
「え、心霊スポットってやつ?」
「いやいや、ただ暗いだけだろ」
「でも橋の下で誰かが出るって聞いたことあるぞ」
「お前それ、ネットのまとめサイトだろ。信じすぎ」
笑いながらも、スマホの画面を覗き込む。
「ほら、これ」
街灯に照らされた川沿いの夜景。後ろの暗がりに、人影のようなものが立っている。
「うわ、マジで写ってるじゃん」
「これ、誰か通りがかったんだろ」
「いや、撮ったとき誰もいなかったんだって」
「じゃあやっぱり…」
「やめろって。心霊スポットとか言うな」
わいわいと声が重なる。茶化す者、信じる者、半信半疑で覗き込む者。
そのとき、ふと誰かが口をつぐんだ。
「……なあ、気づいた?」
「何を?」
「さっきまで風、吹いてたよな」
「……あ」
コンビニの明かりに照らされた駐車場。さっきまで店先の旗がぱたぱた揺れていたのに、今はぴたりと止まっている。闇の中で、虫の声だけがやけに大きく響いていた。
写真を覗き込んでいた輪の中に、妙な沈黙が漂った。
誰もが笑いを引き出そうとしたが、声は空回りして、場の空気は少し冷えていた。
そのとき、誰かがぽつりとつぶやいた。
「……そろそろ帰ろうかな。もう遅い時間だし」
その言葉が合図のようになり、他のメンバーも口々に帰り支度を始める。
「俺も明日早いし」
「じゃあまた次のオフで」
「気をつけて帰れよ」
車のドアが閉まる音、エンジンのかかる音が重なり、駐車場から一台、また一台と車が出ていく。コンビニの明かりだけが残り、夜の闇がじわじわと濃くなる。
やがて、俺と写真を撮った友人だけが残った。
二人で並んでスマホの画面を見つめる。
川沿いの夜景、暗がりに立つ人影。
「……やっぱり、誰もいなかったんだよな」
友人が低い声で言う。
「うん」
俺も短く返す。
風は止んだまま。コンビニの明かりに照らされた駐車場は、不自然なほど静かだった。




