温泉街の記憶5
「おお、ええやん!俺たちの街も撮り方ひとつで、めっちゃオシャレになるなぁ」
「ほんまやなぁ。普段見慣れてる神社の階段も、こうやって切り取ると雰囲気あるわ」
「観光協会とかも、こんな写真使えばええのにな。パンフレットとか、もっと映えるやろ」
「せやせや。俺らが飲んでるこの居酒屋の外観も、兄ちゃんが撮ったら観光名所みたいに見えるんちゃうか?」
「いやぁ、地元の景色もこうして見ると捨てたもんやないな。兄ちゃん、ええ腕してるわ」
「写真って、ただ記録するだけやと思ってたけど…こうやって見せてもらうと、街の空気まで切り取れるんやなぁ」
「あ、いや…そんな大したもんじゃないですけどね」
「たまたま光の具合が良かっただけで…」
「でも、そう言ってもらえると嬉しいです」
タブレットを操作していると、昼間ふと立ち止まって撮った一枚が画面に現れた。古びた民家。瓦は少し欠け、格子戸は色褪せているが、夕方の光に照らされて妙に印象的だった。
それを見た常連の一人が、コップを片手に声を低めて言った。
「お、これ撮ったんか。ここはな…昔は置屋やったんや。まだこの辺が栄えてた頃やな」
別の常連が頷きながら続ける。
「芸妓さんもおったからなぁ。夜になると三味線の音が聞こえてきて、通りも賑やかやったんやで」
「今はもう静かになってしもうたけど、こうして写真で見ると、昔の面影がまだ残っとるな」
「へぇ…そうだったんですか。全然知らなかったです」
「なんか、ただの古い家やと思って撮ったんですけど…」
「兄ちゃんの写真やから余計にそう見えるんや。昔の記憶が呼び起こされるいうか…」
「ほんまやな。観光協会もこういう写真使えば、街の歴史も伝わるのにな」
タブレットの画面を囲むように、常連たちの声が重なり合う。写真はただの記録ではなく、彼らの記憶を呼び覚まし、居酒屋の夜に新しい物語を添えていた。




