夏の夜景撮影での出来事 6
山を降り、ようやく家に辿り着いた。
三脚とカメラ、クーラーボックスを抱えて玄関をくぐる。靴を脱ぎ、荷物を置いた瞬間、ふと違和感に気づいた。
カメラの電源が入ったままだったのだ。展望台で確かに電源を落としたはずなのに。慌ててスイッチを切り、深く息を吐く。
クーラーボックスの中の溶けかけた氷を冷凍庫へ、飲み物を冷蔵庫へ入れる。片付けを終えると、疲れが一気に押し寄せ、そのまま布団へ倒れ込んだ。
目を覚ましたのは昼の二時を少し回った頃。クーラーの効いた部屋で、ぼんやりと昨日の夜景撮影のことを思い出す。ふと、データを確認してみようと思い立ち、パソコンへカメラを繋ぐ。
すべてのデータを抜き取り終えた後、妙な違和感に気づいた。撮影枚数が、どう考えても多すぎるのだ。展望台で撮った数よりも、明らかに。
一枚一枚確認していく。夜景の失敗作、光が滲んだ写真、構図の定まらないもの。だが最後の三枚だけは違っていた。
電源を落としたはずの車の中で撮られたものだった。
画面に映し出されたその写真を見た瞬間、顔が引き攣る。
助手席には、誰もいないはずだった。だがそこには、白い巫女装束のような服を纏い、顔を白布で覆った髪の長い女性が、ピンぼけで写り込んでいた。
さらに、その白布には淡く揺れるような文様が浮かんでいた。水の流れを象った「流水紋様」。光の加減で波が寄せては返すように見え、まるで布そのものが呼吸しているかのようだった。
ただの布ではない。何かの儀式に使われたものなのか、それとも…。
写真の中でぼんやりと揺れるその模様を見ていると、耳の奥に再び「チリン…」という鈴の音が蘇り、背筋を冷たいものが走った。
一体、彼女は誰だったのか。
その後、特に異変は起きていない。だが、写真の中でこちらを向いているように見えるその影と、揺れる流水紋様は、今も脳裏に焼き付いて離れない。




