表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/106

夏の夜景撮影での出来事 5

時間も遅くなり、先ほどの鈴の音が妙に胸に残り、恐怖を覚えた俺は山を降りる決心をした。三脚とカメラは帰ってから片付ければいい。そう割り切り、カメラの電源を落として車へと放り込み、クーラーボックスも後部座席に押し込む。

運転席へ乗り込もうとしたその時

ふと視線の端に、揺れる光が映った。

展望台と神社の中間あたり。闇の中に、ほのかに揺れる橙色の光。まるでロウソクの灯りのように、風に合わせて小さく震えている。

この山道は、車で来なければ到底登れるような優しい道ではない。夜の山を徒歩で上がってくる者など、いるはずがない。なのに、確かにそこに光がある。

心臓が早鐘を打つ。冷えた空気がさらに冷たく感じられ、背筋を撫でるような寒気が走る。


「……まずいな…」


そう呟き、慌てて車へ乗り込み、展望台を後にした。エンジン音が闇を震わせ、ヘッドライトが道を切り裂く。だがバックミラーの奥には、まだあの揺れる光が小さく瞬いているように見えた。

山を降りる時、心臓は早鐘のように脈打ち、まるで「早く逃げろ」と急かすようだった。ハンドルを握る手には汗が滲み、ヘアピンカーブを抜けるたびにタイヤが路面を強く噛む音が耳に残る。

闇の中を切り裂くヘッドライトの光は頼りなく、曲がり角の先に何が潜んでいるのか分からない。バックミラーをちらりと覗けば、展望台の方角はすでに闇に沈み、あの揺れる光も見えなくなっていた。だが、見えないことが逆に不安を煽る。

やがて、街の灯りが遠くに滲み始める。コンビニの看板が視界に入った瞬間、胸の奥に張り詰めていた緊張が少しだけ緩んだ。車を停め、エンジンを切ると、静けさが戻ってくる。だが、耳の奥にはまだ「チリン…」という鈴の音が残響のようにこびりついていた。

冷たい飲み物を買おうとコンビニの自動ドアをくぐる。蛍光灯の白い光がやけに眩しく、ついさっきまでいた山の闇が夢だったかのように思える。だが、胸の奥に残る冷えと、耳に残る鈴の余韻が、それが夢ではなかったことを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ