夏の夜景撮影での出来事 5
時間も遅くなり、先ほどの鈴の音が妙に胸に残り、恐怖を覚えた俺は山を降りる決心をした。三脚とカメラは帰ってから片付ければいい。そう割り切り、カメラの電源を落として車へと放り込み、クーラーボックスも後部座席に押し込む。
運転席へ乗り込もうとしたその時
ふと視線の端に、揺れる光が映った。
展望台と神社の中間あたり。闇の中に、ほのかに揺れる橙色の光。まるでロウソクの灯りのように、風に合わせて小さく震えている。
この山道は、車で来なければ到底登れるような優しい道ではない。夜の山を徒歩で上がってくる者など、いるはずがない。なのに、確かにそこに光がある。
心臓が早鐘を打つ。冷えた空気がさらに冷たく感じられ、背筋を撫でるような寒気が走る。
「……まずいな…」
そう呟き、慌てて車へ乗り込み、展望台を後にした。エンジン音が闇を震わせ、ヘッドライトが道を切り裂く。だがバックミラーの奥には、まだあの揺れる光が小さく瞬いているように見えた。
山を降りる時、心臓は早鐘のように脈打ち、まるで「早く逃げろ」と急かすようだった。ハンドルを握る手には汗が滲み、ヘアピンカーブを抜けるたびにタイヤが路面を強く噛む音が耳に残る。
闇の中を切り裂くヘッドライトの光は頼りなく、曲がり角の先に何が潜んでいるのか分からない。バックミラーをちらりと覗けば、展望台の方角はすでに闇に沈み、あの揺れる光も見えなくなっていた。だが、見えないことが逆に不安を煽る。
やがて、街の灯りが遠くに滲み始める。コンビニの看板が視界に入った瞬間、胸の奥に張り詰めていた緊張が少しだけ緩んだ。車を停め、エンジンを切ると、静けさが戻ってくる。だが、耳の奥にはまだ「チリン…」という鈴の音が残響のようにこびりついていた。
冷たい飲み物を買おうとコンビニの自動ドアをくぐる。蛍光灯の白い光がやけに眩しく、ついさっきまでいた山の闇が夢だったかのように思える。だが、胸の奥に残る冷えと、耳に残る鈴の余韻が、それが夢ではなかったことを告げていた。




