古い手鏡7
俺は鏡へ視線を移したまま黙り込んだ。
朱塗りの艶は、酒の灯りを受けて静かに光っている。
場の空気が一瞬止まり、友人たちが互いに顔を見合わせた。
彼氏:「なぁ……どうだろう?ある程度は支払いもするから、譲ってもらえないか?
彼女が物を欲しがるのって本当に珍しいんだよ。普段は全然欲しいって言わないのに、今日は違うみたいでさ」
友人A:「それならいいんじゃないか?欲しいって言うなら、譲ってあげても」
友人B:「そうそう。お前も骨董市で安く買ったんだろ?少し儲かるくらいで譲ればいいじゃん」
友人C:「縁があるなら、彼女さんに渡すのも自然な流れかもしれないな」
場の空気は「譲ってもいいんじゃないか」という方向へ傾いていった。
だが、俺の胸にはあの時の言葉が重く残っていた。
俺:「……いや、実は骨董市で買う時に、店番の女性から忠告を受けたんだ。
『その鏡、女性に送ることだけは行けないよ』って。
でも、その意味は俺にも分からない。理由は教えてくれなかったんだ」
一瞬、場が静まり返った。
友人A:「……え、なんだそれ。意味深すぎるだろ」
友人B:「理由も言わずにそんなこと言うなんて、余計に怖いな」
友人C:「でも、そう言われたら確かに気になるな……」
彼氏:「なるほど……そういう話があったのか。じゃあ無理にとは言えないな」
そう言いながらも、彼女はまだ鏡を見つめていた。
その瞳は、諦めきれないような揺らぎを帯びていた。
彼女:「……でも、本当に綺麗なんです。朱塗りの艶が、ずっと目に残って離れなくて。
忠告があったのは分かりますけど……どうしても欲しいって気持ちが消えないんです」
友人A:「おいおい、まだ言うか(笑)」
友人B:「でも、気持ちは分かるな。あれは確かに目を引く」
友人C:「忠告があるからこそ余計に欲しくなるんじゃないか?」
俺は少し強い調子で言葉を重ねた。
俺:「……だからこそ、今は絶対に譲れない。
忠告の意味を俺自身が知らない以上、軽々しく渡すわけにはいかないんだ。
もう一度骨董市に行って、あの女性に理由を聞いてくるつもりだ。
それまでは……どうしても譲れない」
場に沈黙が落ちた。
友人たちは互いに顔を見合わせ、彼女は唇を噛みながら鏡を見つめ続けていた。
彼女:「……そうですか。でも……やっぱり諦めきれないんです。
理由が分かったら、また考えていただけませんか?」
その声は、柔らかいのにどこか切実だった。
俺の胸には、忠告と彼女の視線が重くのしかかっていた。




