古い手鏡6
酒も進み、笑い声が絶えない中で、ふいに彼女さんが口を開いた。
彼女:「あの……壁際にある朱塗りの手鏡、すごく綺麗ですね。朱色が鮮やかで、部屋の雰囲気に合ってる」
その場の空気が少し変わった。友人たちも一斉に鏡の方へ視線を向ける。
俺:「ああ、あれか。骨董市で見つけたんだよ。最初は茶碗を探してたんだけど、備前焼が見つからなくてね。
代わりにこの鏡が目に飛び込んできて……気づいたら値段を聞いてた」
友人A:「お前らしいなぁ。古いもの見るとすぐ欲しくなるんだろ?」
友人B:「そうそう。前も古いランプ買ってたじゃん。あれも骨董市だったよな」
俺:「まぁ……そういうのに弱いんだよ。雰囲気があるし、置いておくだけで空気が変わる気がしてさ」
友人C:「でも、鏡って珍しくない?普通は皿とか茶碗とかに目が行くのに」
俺:「そうなんだよ。俺も最初は茶碗を探してたんだ。けど、この朱色が妙に鮮やかで……
店番のおばあさんも『鏡は人を選ぶ』って言ってたし、なんか縁を感じて買ったんだ」
友人A:「縁ねぇ(笑)。やっぱりお前、古いもの好きだよなぁー」
友人B:「しかも“呼ばれてる”って言い方が怪談っぽいぞ」
俺:「いや、ほんとにそんな感じだったんだよ」
笑い声が広がる中、彼女さんは静かに鏡を見つめ続けていた。
やがて、少し照れたように笑みを浮かべながら言葉を添えた。
彼女:「……朱塗りって、やっぱりいいですね。艶があって、ちょっと華やかなのに落ち着いてる。
こういうの、部屋にあったら素敵だろうなって思って……」
友人C:「お、気に入ったみたいだな」
友人A:「やっぱり女性は鏡に惹かれるんだな」
友人B:「でも、あれはアイツが一目惚れして買ったんだぞ?」
彼女は少し躊躇いながらも、柔らかい声で続けた。
彼女:「……もしよかったら、譲っていただけませんか?
朱塗りがすごく綺麗で、いい感じだから……どうしても欲しくなってしまって」
その言葉に、場の空気が一瞬止まった。
友人たちが「え?」と声を漏らし、俺の方へ視線を向ける。
友人A:「おおっと、まさかの展開だな」
友人B:「やっぱり女の人は鏡に惹かれるのかね」
友人C:「でも、譲るって……どうするんだ?」
俺は鏡へ視線を移した。朱塗りの艶は、酒の灯りを受けて静かに光っていた。
女性に送ることだけは行けない──あの時の店番の言葉が、ふと脳裏に蘇った。
俺:「……」




