表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/84

古い手鏡5

朱塗りの手鏡を家に飾り始めてから、特に何も起こらなかった。

日々は淡々と過ぎ、鏡はただ静かにそこにあるだけだった。

そんなある日、友人たちを招いて飲み会をすることになった。

「彼女も連れて行っていい?」と友人から言われ、俺は快くOKした。

夕方、数名の友人が家に到着した。

玄関で「お邪魔しまーす」「広いなぁ」「いい雰囲気だね」と口々に声を上げ、

靴を脱ぎながら笑い合う。

リビングに案内すると、準備していた酒の肴がテーブルに並んでいた。

枝豆、焼き鳥、漬物、チーズにクラッカー。

「お、気が利いてるな」「これは飲みすぎちゃうやつだ」と歓声が上がる。

皿やグラスを出してもらいながら、ワイワイと話が弾んだ。

友人A:「いやぁ、久しぶりだな。前に会ったのいつだっけ?」

友人B:「夏のバーベキューじゃない?あの時、肉焦がしたの誰だっけ?」

俺:「おい、それ俺だよ。炭火が強すぎたんだって」

友人たち:「あははは!」

友人C:「そういえば、最近仕事どう?忙しい?」

俺:「まぁぼちぼちだな。古民家の改装の方がむしろ忙しいくらいだよ」

友人A:「あー、あの改装のやつ?SNSで見たよ。なんか石材で基礎を直してたろ」

俺:「そうそう。地元の石材店で面白い素材を見つけてね。壁の補強に試してたんだ」

友人B:「ほんと好きだなぁ。俺なんか休日は寝て終わるよ」

友人C:「いや、それも幸せだろ」

笑い声が重なり、酒が進む。氷の音がカランと響き、枝豆の殻が皿に積み上がっていく。

友人A:「そういえば旅行行ったって言ってなかった?」

友人B:「ああ、京都に行ったんだ。紅葉がすごくてね」

友人C:「いいなぁ。俺も行きたいけど休みが取れなくて」

俺:「京都か……骨董市も多いよね。掘り出し物とか見つかった?」

友人B:「いや、結局食べ歩きばっかりだったな。骨董は見なかった」

友人A:「お前ら、飲み会でも食べ物の話ばっかりだな」

再び笑い声が広がる。

友人C:「そういえば、彼女さんは初めてだよね?」

彼女:「はい、今日はよろしくお願いします」

友人A:「いやぁ、こんな変わり者の集まりに付き合ってくれるなんてありがたい」

彼女:「いえ、楽しそうですから」

その時、ふと気づいた。

彼女が壁際に飾ってある朱塗りの手鏡をじっと見ていたのだ。

他の友人たちが談笑し、皿を回し、酒を注ぎ合う中で、

彼女だけが静かに鏡へ視線を注ぎ続けていた。


友人B:「おい、次はカラオケでも行くか?」

友人C:「いや、もう酔ってるから声出ないだろ」

俺:「ここで歌ったら近所迷惑だぞ」

友人A:「じゃあ次は鍋でもやろうぜ。冬だし」

そんな掛け合いが続く中、彼女の瞳は鏡から離れなかった。

その瞳は好奇心とも、不思議さともつかない色を帯びていた。

まるで鏡の奥に何かを見ているかのように。

それ以外は、特に何も無かった。

飲み会は和やかに進み、笑い声と酒の匂いが夜を満たしていった。

だが、俺の心の片隅には、彼女の視線と朱塗りの鏡が静かに残り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ