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古い手鏡2

ふと足を止め、朱塗りの手鏡に目が釘付けになっていた。

その艶やかな朱色は、周囲の古びた品々の中で異様なほど鮮やかに見えた。

じっと見つめていると、店番をしていた年配の女性がふいに声をかけてきた。


女性:「あら、その鏡が気になるのかい?……男性にしては珍しいねぇ」


柔らかな声だった。押しつけがましくもなく、ただこちらの興味を受け止めるような響き。

俺:「ええ……なんだか目を引かれてしまって。朱塗りの鏡って、あまり見ないですよね」

女性:「そうでしょう。今はもう、こういう塗りの鏡はほとんど作られないからね。

昔は嫁入り道具に入っていたりしたものなんだけど、今じゃ珍しいわ」

女性はにこやかに笑いながら、鏡の縁を指先で軽く撫でた。

その仕草に合わせて、朱色が微かに光を返す。

俺:「……これ、値段はどれくらいなんですか?」

女性:「そうねぇ、三千円でどうかしら。骨董といっても、手軽に楽しんでもらえるくらいの値段にしてるのよ」

思ったより高くはなかった。

手に入れれば面白いだろう。部屋に置いておけば雰囲気も出る。

だが、どこか気配のようなものがまとわりついている気もする。

俺:「なるほど……確かに、飾るだけでも雰囲気が出そうですね。

でも、他にも気になるものがあって……少し値段を下げてもらうことはできますか?」

女性は少し目を細め、俺の顔を覗き込むようにして笑った。

女性:「あら、値切り上手ねぇ。……そうね、せっかくだから二千五百円でいいわ。

他にも見たいものがあるなら、その分楽しんでいってちょうだい」

俺:「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

女性:「骨董市はね、品物との出会いも人とのやり取りも楽しむものなの。

値段だけじゃなく、気持ちも含めて持ち帰るといいわよ」

その言葉に、俺はさらに迷いを深めた。

二千五百円という手頃な値段が背中を押す一方で、朱塗りの鏡は静かにそこにありながら、

まるで俺の決断を待っているように見えた。


俺:「……買うべきか、どうしようかな」

女性:「悩むのもまた縁よ。気に入ったなら持ち帰ってあげるのもいいし……

ただ、無理に買うものでもないからね。鏡は、映す人を選ぶこともあるのよ」


女性の柔和な笑みと、朱塗りの鏡の艶やかな光。

その二つが重なり合い、俺の心を揺らし続けていた。

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