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古いガラス食器 10

夕方、居間のテーブルには俺が持参した酒と肴が並び、さらにキッチンで作った料理が加わった。

焼き魚に柚子を添え、出汁の効いた煮物、胡麻を振った卵焼き、そして軽く炒めた野菜の小鉢。

香ばしい匂いが漂い、友人と彼女の顔に自然と笑みが浮かんだ。


友人:「おい、居酒屋みたいじゃないか。これだけで十分だよ」

俺:「せっかくだからな。酒の肴は多い方がいいだろ」

彼女:「……本当に料理上手ですね。こういうの、久しぶりに落ち着いて食べられる気がします」


三人で箸を進める。

友人は酒を片手に煮物を頬張りながら「うまい」と何度も繰り返す。

彼女は卵焼きを口に運び、少しほっとしたように目を細めた。

俺は酒を飲まず、料理を口に運びながら二人の様子を見守っていた。

昼間に皿を封印して車に置いたことで、心の奥に小さな安心が広がっていた。

「……これで今夜は大丈夫だ」心の奥にそう思える余裕があった。

やがて、酒の勢いもあって話題は少し砕けたものへ。

友人:「なぁ……お前、なんで彼女いないんだ?」

俺:「いきなりだな。そういう話か」

彼女:「だって、こんなに料理もできるし、気も利くのに。不思議ですよ」

俺:「いやいや、そんな大したもんじゃない。俺は多趣味だからさ。

あれこれ手を出してばっかりで、落ち着いて人と向き合う時間が少ないんだ」

すると、二人が同時に突っ込んできた。

友人:「多趣味って……具体的に何だよ?」

彼女:「そうそう、気になる」

俺:「カメラとダーツ、あとはスノボだな。

季節ごとに違う場所へ行くし、1年通してあちこち飛び回ってるよ。

だから落ち着いて誰かと過ごすっていうより、趣味に振り回されてる感じだ」

友人:「なるほどな……確かに忙しそうだ」

彼女:「でも、それだけ楽しんでるならいいじゃないですか。

むしろ一緒に楽しめる人がいたら最高ですよ」

俺:「まぁ、そういう縁があればな」

その言葉に、彼女が少しだけ真剣な顔をした。

彼女:「……縁、か。そういうものなんですね」

友人:「おいおい、急に真面目になるなよ。今は楽しく飲もう」

笑い声が弾み、食卓は温かい空気に包まれた。

料理の匂いと酒の香りが混ざり合い、時間が穏やかに流れていく。

その時、携帯が鳴った。

画面に映った名前を見て、胸がざわつく。宮司さんからだった。

「……はい、もしもし」

受話口から聞こえる声は切迫していた。

宮司:「すぐに神社へ来なさい。箱ごと、ひとりでだ。今すぐだ」

短い言葉だったが、強い圧が込められていた。

俺は息を呑み、すぐに返事をした。

「……分かりました。すぐに向かいます」

電話を切ると、友人と彼女が不安そうにこちらを見ていた。

友人:「どうしたんだ?」

俺:「宮司さんからだ。箱を持って、今すぐ神社へ来いと……」

彼女:「え……そんな急に?」

俺は二人に断りを入れた。

「悪い、少し出てくる。箱を持って行かなきゃならないんだ」

友人:「そうか……気をつけてくれ」

彼女:「……本当に大丈夫なの?」

心配そうな視線を背に、玄関へ向かう。

慌てて車に乗り込もうとした時、背後から声が飛んできた。


彼女:「私も行く!一緒に行かせて!」


思わず振り返る。

彼女の目は真剣で、どこか必死な光を帯びていた。

俺:「いや、宮司さんは“ひとりで”と言ったんだ。君は来ない方がいい」

彼女:「でも……私も関わってしまったんだから、見届けたい」

少し悶着になりかけたその時、友人が彼女の肩を掴んだ。

友人:「やめろ。宮司さんが“ひとりで”と言ったんだ。ここは任せよう」

彼女:「……でも」

友人:「頼む。俺も心配だが、ここで待つしかない」

彼女は唇を噛み、やがて小さく頷いた。

その瞳にはまだ不安が残っていたが、友人の言葉に従ったようだった。


俺:「必ず戻る。少し待っていてくれ」


そう言い残し、俺は車に乗り込む。

助手席には札で封じた木箱。

エンジンをかけると、夜の静けさを切り裂くように車は走り出した。


神社へ向かう道は暗く、街灯の光が途切れ途切れに続いていた。

胸の奥には宮司の切迫した声が響き続けていた。

「……すぐに神社へ来なさい。箱ごと、ひとりでだ」


──その言葉が重くのしかかり、ハンドルを握る手に力がこもった。

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