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古いガラス食器 9

週末は思ったよりもすぐに訪れた。

時間の流れが妙に速く感じられ、気づけばもう友人宅へ向かう日になっていた。

俺は軽く酒と肴を手にして、あえて明るい気持ちで車を走らせた。

助手席には神社の宮司から渡された木箱と札。

その存在感は重いが、今は笑顔で迎えに行くことが大事だと思った。

昼過ぎ、友人宅に到着。

玄関先で友人と彼女が出迎えてくれる。

俺:「お待たせ。今日は酒と肴を持ってきたから、夜は少し気楽にやろう」

友人:「助かるよ。正直、こういう雰囲気が欲しかったんだ」

彼女:「……ありがとうございます。少しでも気が紛れるなら」

居間に通され、俺はすぐに箱の話を切り出した。

俺:「宮司さんから預かった箱だ。皿はこれに入れて封印しておこう。

夜の間は絶対に触れないように、車に置いておく」

友人は頷き、彼女は少し緊張した面持ちで皿を持ってきた。

光を受けて淡く輝くその器は、切子模様が複雑に反射し、

まるで水面に月が揺れているような輝きを放っていた。

俺は思わず息を呑んだ。

ただの器ではないはずなのに、その美しさに心を奪われる。

指先が皿の縁に触れた瞬間、ひんやりとした感触が伝わり、

妙に心地よい冷たさが胸の奥に残った。

ほんの一瞬、手放したくないような気持ちが芽生えた。


「……やはり、ただの器じゃないな」


心の中でそう呟きながらも、俺は意識を振り払う。

木箱を開け、皿を静かに収める。

蓋を閉め、宮司から渡された札を二枚、対角に貼り付ける。

札が箱に吸い付くように張り付いた瞬間、空気が変わった。

張り詰めていた緊張が和らぎ、三人ともわずかに息をついた。

友人:「……これで少し安心できるな」

彼女:「はい……。触れなくて済むと思うと、心が軽くなります」

俺:「車に置いておくから、ここではもう気にしなくていい。

今日はただ、ゆっくり過ごそう」

箱を車に運び出す時、助手席に置いた木箱が妙に存在感を放っていた。

だが札の封印があることで、心の奥に小さな安堵が広がっていく。

「……これで今夜は大丈夫だ」

居間に戻ると、酒と肴が並べられていた。

夜が近づくにつれ、空気は少しずつ柔らかくなっていく。

俺:「さて、せっかくだから馴れ初めでも聞かせてもらおうか」

友人:「おいおい、そんな話を今さら茶化すなよ」

彼女:「ふふ……でも、いいですよ。あの時は偶然が重なって……」


三人で笑いながら、昔話に花を咲かせる。

俺はわざと茶化すように言葉を投げる。

「最初は彼女の方が冷たかったんじゃないか?」

「いやいや、彼の方が緊張して何も話せなかったんだろ」


友人は照れ笑いを浮かべ、彼女は肩をすくめて笑う。

そのやり取りに、昼間の緊張が少しずつ溶けていった。

夜が更けるにつれ、酒も進み、話題はたわいないことへと移っていく。

仕事の愚痴、旅行の思い出、昔の失敗談。

笑い声が絶えず、時間の流れが穏やかに感じられた。

外はすっかり暗くなり、窓の外に虫の声が響く。

だが、札で封じた箱が車に置かれていることを思い出すたびに、

心の奥に小さな安心が広がっていった。

こうして夜は静かに、しかし温かく更けていった。

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