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古いガラス食器 7

骨董品屋を後にした俺は、再び観光案内所へ立ち寄った。

カウンターにいた渋いおじさんが顔を上げる。

俺:「先ほどはありがとうございました。おかげで店を見つけることができました」

おじさん:「そうでしたか。見つかりましたか……いやぁ、珍しいですね。あの店に行く人は滅多にいないのに」

年配の職員も近づき、静かに頷いた。

「場所は分かりづらいでしょう。けれど、行けたなら良かった。お気をつけて」

軽く頭を下げ、案内所を後にする。

夕暮れの街並みを抜け、車に乗り込むと、胸の奥にまだ主人の言葉が残っていた。

ハンズフリーで電話を繋ぐ。


「……もしもし」


友人:「お、どうだった?行けたのか?」

俺:「あぁ、店はあった。分かりづらい場所だったけど、案内所で教えてもらってな」

友人:「そうか……やっぱりあったんだな」

俺は少し間を置き、骨董品屋の主人から聞いたことを伝え始めた。

俺:「主人に聞いたんだ。ガラス食器は“縁のある人を選ぶ”って言ってた。

物はただの物じゃなくて、持つ人の心に寄り添うものだって」

友人:「……縁、か」

俺:「それで、夜に皿を撫でていることを話したんだ。主人は“縁が人を試すこともある”って言ってた。

無理に縁を断とうとすると心を乱すから、まずは寄り添ってみろ、と」

友人:「寄り添う……って、どういうことだ?」

俺:「彼女が皿に何を語りかけているのか、耳を澄ませてみることだって。

意味が分からなくても、受け止めることで縁は落ち着くかもしれないって」

電話の向こうで、友人はしばらく黙り込んだ。

やがて、ため息混じりに声を返す。

友人:「……そうか。やっぱり、ただの器じゃないんだな。俺も、どうしていいか分からなくて」

その時、電話の向こうから彼女の声が重なった。

彼女:「……あの、聞こえてますか?」

俺:「え……あぁ、聞こえてます」

声はかすかに震えていた。疲れと戸惑いが混じり、言葉を選ぶようにゆっくり続ける。

彼女:「……正直、もう少しで気が滅入りそうなんです。夜になると、どうしてもあの皿に触れてしまって……

気づけば、何かを話しかけている。自分でもおかしいって分かってるのに、やめられないんです」

友人が横から支えるように声を挟む。

友人:「俺も見てるんだ。止めようとすると余計に苦しそうで……どうしたらいいか分からない」

彼女:「だから……一度、来ていただけませんか。様子を見て欲しいんです。

彼も心配しているし、私も……この食器のこと、誰かに見てもらいたいんです」

彼女の声は穏やかさを保とうとしていたが、言葉の端に切迫感が滲んでいた。

友人が「いいんだな?」と確認する声が聞こえ、彼女は静かに頷いたようだった。

俺:「……分かりました。行きます」

彼女:「ありがとうございます。では、日程を決めましょう。次の休みはいつですか?」

友人:「俺は来週の土曜なら空いてる。彼女もその日なら大丈夫だ」

彼女:「はい……土曜なら問題ありません。……その日まで、少しでも落ち着いて過ごせるようにしてみます」

俺:「俺も土曜なら行ける。じゃあ、その日に伺います」


三人の声が重なり、次の休みの日程が決まった。

電話の向こうで、友人が安堵の息を漏らす。

友人:「助かるよ。本当に……ありがとう」

彼女:「……お待ちしています。来ていただけるだけで、少し救われる気がします」


電話が切れた後も、主人の言葉が頭の中で反響していた。

「縁は流れるもの……元に戻ることもある」

その響きは、夜の山道を走る車内に、妙な冷たさを残していた。

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