古いガラス食器 4
次の休み。
俺はひとりで車を走らせ、山間の温泉街へ向かった。
道中は特に問題もなく、見慣れた山道と川沿いの景色が続く。
何度も訪れたことのある街並みが近づくにつれ、胸の奥に妙なざわめきが広がっていった。
温泉街に着いても、骨董品屋に心当たりはない。
通りを歩いても、友人が言っていたような古びた店は見当たらなかった。
そこで、とりあえず観光案内所に入ることにした。
木造の建物に入ると、数名の職員が机に向かっていた。
カウンターには渋い雰囲気のおじさんが座っていて、俺に気づくと顔を上げた。
「いらっしゃい。観光ですか?」
「ええ、そうなんです。ちょっとお聞きしたいんですが……この街に骨董品屋ってありますか?」
おじさんは少し首を傾げて笑った。
「骨董品屋?うーん、この辺にそんな店あったかなぁ」
後ろの職員たちも顔を上げて、互いに視線を交わす。
「聞いたことないね」「昔は雑貨屋ならあったけど……」と軽い声が飛び交う。
俺は少し困ったように続ける。
「温泉街の通りから外れた路地にあるって聞いたんです。看板も古いらしくて……」
おじさんは腕を組み、考え込むように天井を見上げた。
その時、奥から年配の職員がゆっくり近づいてきた。
白髪の混じった髪に眼鏡をかけたその人は、穏やかな声で口を開いた。
「……あぁ、あるよ。昔からやってる店だ。場所はちょっと分かりづらいけどね」
おじさん:「本当にあるんですか?」
年配の職員:「あるある。ただ、あまり人が寄りつかないんだ。路地の奥で目立たないからな」
俺は思わず息を呑んだ。
何度も訪れた温泉街なのに、そんな店を見た記憶はない。
だが、年配の人は迷いなく場所を教えてくれた。
「この通りを抜けて、川沿いに少し歩いたところだよ。
古い看板が出ているはずだから、見落とさないようにね」
俺:「ありがとうございます。助かりました」
おじさんはまだ不思議そうな顔をしていたが、年配の職員は淡々と地図を指差し、
俺にその場所を示してくれた。
観光案内所を出ると、冷たい風が頬を撫でた。
心の奥に、不思議な緊張がじわりと広がっていく。
「本当にあるのか……」
そう呟きながら、俺は教えられた路地へと足を向けた。




