古いガラス食器 2
友人:「……これはさ、ある山間の温泉街に行った時のことなんだよ」
俺:「温泉街?いいなぁ。最近行ってないわ」
友人:「観光して、温泉入って、グルメも楽しんでさ。
ちょっと寂れた感じの街だったけど、二人での久しぶりの旅行でテンションは高かったんだ」
俺:「そういう雰囲気、逆にいいよな。静かで落ち着くし」
友人:「でさ、その温泉街に古びた骨董品屋があって、ふらっと入ったんだよ」
俺:「骨董品屋?なんか怪しい匂いするな」
友人:「そう思うだろ?でも、そこで見つけたんだ。昭和の切子ガラスの食器。
ペアで格安だったんだよ。見た瞬間、いい感じだなって思ってさ」
俺:「へぇ、そんな掘り出し物あったんだ。ペアってのもいいな」
友人:「二人で笑い合いながら『これ買おうか』って決めたんだ。
でもさ……店の主人が、ちょっと売るのを躊躇ってたんだよ」
俺:「躊躇う?なんで?」
友人:「主人が言うんだ。『その器は……あまり人に渡すものじゃない』って。
俺たちが『どうしてですか?』って聞いたら、しばらく黙っててさ。
結局、『まぁ、気にしないなら持っていきなさい』って言って売ってくれたんだ」
俺:「……なんか引っかかるな」
友人はジョッキを置き、声をさらに落とす。
友人:「楽しい旅行から帰ってきて……3日後の深夜だった。
俺はベッドにいたんだけど、ふと目が覚めて彼女がいないことに気づいたんだ」
俺:「……リビングにいたのか?」
友人:「そう。リビングで、あの購入した皿を撫でながら……ブツブツと何かを呟いてたんだ」
俺:「……皿を撫でながら?」
友人:「あぁ。まるで誰かに話しかけてるみたいに。
俺には聞き取れない言葉で、ずっと……」
居酒屋のざわめきは変わらないのに、二人のテーブルだけが冷たい空気に包まれていく。
俺:「……それ、今も続いてるのか?」
友人:「……あぁ。旅行から帰ってきてから、夜になると必ず……」
友人は少し黙り込み、ジョッキを見つめる。
そして、ためらうように口を開いた。
友人:「……なぁ、お前。こういう話、聞いたことないか?」




