初詣の帰り道で5
細い街中の暗い道を、自転車のライトだけが頼りだった。
光が照らすのはほんの数メートル先だけで、
その外側は全部、墨を流したみたいに真っ黒だ。
ペダルを踏むたびに、
シャコ…シャコ…
とチェーンが乾いた音を立てる。
後ろからは、
タッタッタッタッと、
あの足音がまだついてくる。
距離が縮んでいるのが分かる。
背中に、追いつかれる気配が張り付いている。
「大きい道に出れば……!」
その一心で、ただひたすらペダルを踏む。
足はもう限界で、太ももが焼けるように痛い。
呼吸は荒く、喉が切れそうだ。
それでも止まれない。
前方に、少しだけ明るい空間が見えた。
大きい道だ。
助かった……そう思った瞬間、
信号の色が目に飛び込んできた。
赤。
「……嘘やろ……」
胸の奥が一瞬で凍りつく。
でも、止まったら終わる。
そんなことは分かりきっている。
死ぬよりマシや。
腹を括って、さらに力を込めて漕ぐ。
チェーンが悲鳴みたいな音を立てる。
信号が近づく。
赤い光が目に刺さる。
後ろの足音は、もうすぐ耳元に届きそうな距離だ。
その瞬間、青に変わった。
「よっしゃ……!」
奇跡みたいなタイミングだった。
そのまま勢いで交差点に飛び込む。
車のライトが横をかすめる。
風が顔を切る。
心臓が破裂しそうだ。
後ろからは、まだ足音が聞こえる。
タッタッタッタッタッ!
大きい道に出ても、街灯が増えても、車の音がしても、あの足音だけは消えない。
むしろ、明るくなったぶん、“追われている”という現実がはっきりしてしまう。
でも、この道を渡った先に交番がある。
そこまで行けば、助かる。
そう信じて、全身の力を振り絞ってペダルを踏み続けた。
胸が焼ける。
視界が揺れる。
涙が勝手に滲む。
それでも、止まれない。
交番の白い建物が、遠くに、ぼんやりと浮かび上がってきた。




