相談の末に8
神社に近付くにつれ、彼はまくし立てるように嫌がるだけでなく、口汚く罵り始めた。
「やめろや……! クソが……! お前も殺すぞ……殺すぞって言うてんねん!!」
さっきまで怯えていた男の声とは思えない。
声の質が変わっていた。
低く、ざらついて、どこか別の何かが混じっているような。
「落ち着け……大丈夫やから……!」
宥めながらも、アクセルを踏み込む足が震えていた。
多少のスピード違反なんてどうでもよかった。
今は、一秒でも早く、その焦りしかなかった。
神社の鳥居が視界に入った瞬間、彼の反応が跳ね上がった。
「行くな!! 行くなって言うてるやろ!! あかん!! あかんて!!」
助手席のベルトが悲鳴のように軋む。
シートが揺れる。
暴れ方が“人間の力”じゃない気がした。
それでも、車は止めなかった。
鳥居の前には、宮司さんと巫女さん三人が既に待っていた。
まるで、俺たちが来る時間を正確に知っていたかのように。
車が止まると同時に、巫女さん二人が駆け寄り、
暴れ続ける彼の両脇を抱えて引きずり出した。
「離せぇぇぇ!! 殺すぞ!! 殺すぞぉぉ!!」
叫び声が夜の空気を裂く。
その声に、鳥居の奥の闇がざわついた気がした。
宮司さんは、そんな彼を一瞥しただけで、
すぐに俺の方へ視線を向けた。
「今日は帰りなさい。彼はこちらで送っていきます」
その声は静かだが、有無を言わせない強さがあった。
「車の鍵は……スペアがあるなら、彼の家の駐車場へ移動させてください。場合によっては……二、三日掛かります」
“掛かります”の言い方が、妙に重かった。
俺はポケットからキーを取り出した。
スペアキーと、普段使っているキーの二つ。
一瞬だけ迷ったが、宮司さんの目を見た瞬間、迷いは消えた。
「……これ、預かってください」
普段使っている方のキーを差し出すと、
宮司さんは無言で受け取り、軽く頷いた。
その仕草だけで、
“もう後戻りはできない”
そんな空気が伝わってきた。
「……はい」
それしか言えなかった。
巫女さんたちに引きずられる彼の叫び声が、
本殿の奥へ消えていく。
その背中を見送りながら、俺はようやく、自分の手が汗で濡れていることに気付いた。




