相談の末に3
席につくと、とりあえずお互いアイスコーヒーを頼んだ。
彼は胸ポケットからタバコを取り出し、
「吸ってもいいか」と小さく言う。
頷く代わりに灰皿をそっと彼の方へ寄せる。
タバコを加え、マッチを擦る音が小さく響いた。
火がついた瞬間だけ、彼の顔がわずかに照らされる。
その光で、目の下の深い影がいっそう濃く見えた。
彼は大きく一度吸い込み、長く煙を吐いた。
その吐息に、疲れと迷いが混ざっていた。
アイスコーヒーが運ばれてくる。
氷が触れ合う音が、妙に冷たく耳に残った。
沈黙が落ちる。
ただの沈黙じゃない。
言葉を探している沈黙でもない。
“言葉にしてしまうと戻れなくなる”
そんな種類の沈黙だった。
彼はタバコを持つ指先に力が入っているのか、
灰が落ちる寸前まで吸い続けていた。
吸い殻を押しつける仕草が、ほんのわずかに震えている。
視線はテーブルの一点に落ちたまま動かない。
何かを思い出すたびに、喉が小さく上下する。
話そうとして、やめて、また飲み込んでいるのが分かった。
「……どう話せばいいか、分からん」
ようやく絞り出した声は、
自分の声にすら自信がないような、かすれた音だった
「とりあえず、起こってることとか、困ってることとか。順番は後でいい。話したいところから話せばいい」
そう言うと、彼はゆっくりと息を吸った。
肺に空気を入れるのをためらうような、重い呼吸だった。
顔を上げたとき、目の奥に“言いたくないけど言わざるを得ない”色が沈んでいた。
「……なあ、お前、怪奇譚とか怪談集めとるやろ」
その声は、喫茶店のざわめきよりもずっと小さかった。




