カラオケでの相談8
俺は、はぁ、と深くため息をついた。
胸の奥に溜まっていた重さを吐き出すような、長い息だった。
そして改めて、彼女の方へ身体を向ける。
「……で、君自身はどうしたいん?」
少し間を置いてから、続ける。
「姿見を手放すのは……どうや?」
その問いに、彼女はすぐには答えなかった。
視線が揺れ、指先がグラスの縁をなぞる。
その“悩む素振り”が、事態が良くない方向へ進んでいることを示していた。
横に座る友人の女の子が、そっと言う。
「……早く手放しなよ」
その言葉に背中を押されたのか、彼女は小さく、小さく頷いた。
友人が俺の方を見て、眉を寄せながら聞いてくる。
「……なんとかなるか?」
俺は立ち上がり、「ちょっと席、外すわ」とだけ伝えて部屋を出た。
廊下に出ると、少し冷たい空気が頬に触れた。
スマホを取り出し、登録してある番号へ電話をかける。
ワンコールも鳴らないうちに、相手は出た。
『もしもし、こちら○○寺です』
「ご無沙汰しております。
以前、掛け軸の件でご連絡させて頂いた〇△です」
『ああ、覚えてますよ。どうされました?』
「実はご相談したいことがありまして……」
俺は簡潔に事情を説明した。
するとご住職は、電話の向こうでくつくつと笑った。
『相変わらずですねぇ、あなたは。
……仕方ないですね。うちで引き取りましょう』
その言葉に、胸の奥が少し軽くなった。
部屋に戻ると、三人とも不安そうにこちらを見ていた。
まるで俺の返事ひとつで空気が変わるのを待っているようだった。
俺は彼女の前に座り直し、静かに言った。
「……その姿見、譲ってくれへんか?」
彼女は驚いたように目を見開き、
「……いいんですか?」と小さく聞き返す。
「ええよ。
ただ、ほんまにええか? 無理してへんか?」
断れないと思ったのだろう。
彼女は小さく、小さく頷いた。
「……はい」
その返事を聞いて、俺は友人の方へ向き直る。
「今回の件は貸しや。
この子に代わりの姿見、新品で買ってやれ。
それが今回の件を水に流す条件や」
その瞬間、三人とも驚いた顔をした。
友人は「マジか……」と呟き、女の子たちは目を丸くして俺を見た。
俺は笑って言った。
「ええの買ってもらいなよ」
彼女は、緊張がほどけたように、ほっとした笑顔を浮かべた。




