カラオケでの相談7
「姿見取りに行った日は、特に何もなかったんですけど……」
彼女はグラスの縁を指でなぞりながら続けた。
「取引相手さんから、返品は絶対ダメですって強く言われて…… それと、夜は布を被せておいてくださいって……言われたんです」
言葉を口にするたびに、手が震えている。
グラスの中の氷が、かすかに音を立てた。
俺は少し身を乗り出し、できるだけ柔らかい声で聞く。
「布、被せ忘れた日から……変な物音、聞こえ始めたんじゃない? それも……夜中に」
その瞬間、彼女の肩がビクッと跳ねた。
完全に図星だ。
友人と、もう一人の女の子が同時に俺へ向き直る。
「なんか知ってんのか」
「知ってるんですか」
二人の声が重なる。
俺は軽く首を振る。
「いや、鏡の話は……割とよく聞く話やからな」
そう言ってから、彼女へ向き直る。
「その姿見に……未練はあるん?」
問いかけると、彼女は唇を噛み、視線を落とした。
葛藤しているのがはっきり分かる。
指先がグラスの縁を何度もなぞり、そのたびに小さな水滴がテーブルに落ちていく。
しばらく黙ったあと、彼女はゆっくり言葉を探し始めた。
「……気に入ってたんです。
アンティークで……すごく綺麗で。
部屋に置いたら、雰囲気も変わって……
嬉しかったんですけど……」
声がだんだん小さくなる。
「でも……怖くて……
どうしたらいいか分からなくて……」
その横で、もう一人の女の子がそっと肩に手を置いた。
そこで、友人が小さく息を吐き、真面目な顔でぽつりと言った。
「……気に入ってたんやな」
「そら簡単に手放せへんわな」
その声は、さっきまでの軽い調子とは違い、状況をようやく理解したような、そんな重みがあった。
彼女は小さく頷き、その目はまだ揺れていた。




