俯瞰撮影で1
休日の朝。
ゆっくりと落ちていくコーヒーの雫が、
ガラスのサーバーの底で静かに音を立てた。
立ちのぼる香りは深く、少し甘く、部屋の空気をゆっくりと満たしていく。
クラシックの弦が柔らかく流れ、窓から差し込む光がテーブルの木目を淡く照らす。
カップを手に取ると、指先に伝わる温度が、胸の奥の緊張をほどいていくようだった。
こんな朝を過ごすのは、いつぶりだろう。
ふと、最近まったく寺社仏閣を巡っていないことを思い出す。
あの静けさや、木々の匂い、石段の冷たさ。
久しぶりにカメラを持って歩くのも悪くない。
音楽を止めると、部屋が一瞬だけ静寂に包まれた。
その静けさが心地よくて、顔を洗い、上着を羽織り、カメラバッグを肩にかける動作がいつもより丁寧になる。
行き先は決めていない。
ただ、今日は“どこかへ行きたい”という気持ちだけがはっきりしていた。
遠出も考えたが、明日の予定を思うと少し躊躇する。
そうだ。
近所の山の上にある小さな社にしよう。
あそこから見下ろす街の景色は、季節ごとに色が変わって、何度撮っても飽きない。
車に乗り込み、エンジンをかける。
暖気の振動がシート越しにゆっくり伝わり、
フロントガラスの向こうで朝の光が少しずつ強くなる。
スマホを繋ぎ、今日の気分に合いそうな曲を選ぶ。
最近流行りの軽い曲をいくつかプレイリストに入れ、
指先で再生を押すと、車内に柔らかいリズムが広がった。
アクセルに足を乗せる。
今日はただ、気持ちよく写真を撮るだけの一日になる。
そんな確信めいた予感が、静かに胸に広がっていた。




