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自販機で2
自販機の光だけが、周りから浮いて見えた。
その白さが、むしろ自販機の向こうにある闇を
いっそう濃くしているように感じる。
ポケットの中の小銭をチャリチャリ鳴らしながら近づいていく。
汗ばんだ指先に金属が少し貼りつく。
小銭を入れ、飲み物のボタンを押す。
ガコンッ
その音が、夜の静けさにやけに響いた。
ただの機械音なのに、不気味に感じる。
特に何があるわけでもないのに、
胸の奥に小さな不安がじわっと広がる。
「さっさと帰ろう」
そう思って踵を返す。
ジャリジャリと、砂利を踏む自分の足音が響く。
そのリズムに混じって、不意に、後ろから同じような足音が聞こえた気がして振り返る。
……何もいない。
それはそうだ。
こんな時間に、そうそう人なんかいるわけがない。
そう思い込もうとするのに、
背中を汗が一筋、ゆっくり伝っていく。
「帰ろう」
そう呟いて、少し小走りになる。
けれど足音は、距離を置くように、
それでも確かに続いて聞こえてくる。
慌てて部屋に入り、扉を閉めた。
バタンッという音が響いたが、もう仕方ない。
鍵をかけ、買ってきた炭酸飲料を一口飲む。
その瞬間
耳元で、かすかに「これで一緒だね」と聞こえた。
思わず、玄関に飲み物を落としてしまった。




