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廃墟で2

少し沈黙が流れた。

受付のざわつきが遠くに引いていくような、妙に長く感じる沈黙だった。

彼は視線を落としたまま、何かを思い出すように指先でカメラバッグの端をゆっくり撫でていた。

不意に、彼は顔を上げて俺に向き直った。

「……撮影って、人を撮るのを……ずっと、されてるんですか?」

言葉の途中で一度だけ呼吸が引っかかった。

質問自体は普通なのに、どこか“探る”ような響きがあった。

「いや、実は元々は風景とか夜景、廃墟とかを撮ってたんですよ」

そう答えると、彼は一瞬だけ目を細めて、ぽつりと呟いた。

「……廃墟、か」

その“か”の部分に、微妙な重さがあった。

肯定でも否定でもなく、ただ“触れたくない記憶”に指が触れたような音。

「はい。よく行ってました」

そう言うと、彼は眉を寄せ、口を開きかけて……閉じた。

何か言おうとして、飲み込んだような動きだった。

「どうされました?」

俺が聞くと、彼は視線を逸らしながら、

「いや……その……ちょっと」

と言い淀んだ。

“ちょっと”の後に続くはずの言葉が、喉の奥で止まっているのが分かった。

その言い淀み方が、どうにも気になった。

「さっき言ってた“いろいろ”って……廃墟に関係あるんですか? もし良ければ、聞かせていただけませんか。もちろん、言いたくなければ大丈夫です」

そう言うと、彼はしばらく黙って俺を見た。

表情は動かないのに、目だけがじわりとこちらを探るように揺れていた。

「……突拍子もない話なんですよ」

声は低く、慎重に言葉を選んでいる感じだった。

「大丈夫ですよ。実は趣味で怪談とか怪奇譚を収集してまして」

そう答えると、彼の肩がわずかに下がった。

緊張が少しだけ抜けたような、そんな動き。

「……それなら、いいか」

小さく呟いた後、彼は周囲を一度見回し、声を落とした。

「初めに言っておきますけどね。

 この話……少し“障”があるかもしれませんよ?」

“障”という言葉だけ、妙に丁寧に発音された。

俺は笑いながら返した。

「障の程度にもよりますが、聞き慣れておりますので」

その言葉に、彼はゆっくりと頷いた。

覚悟を決めるように、一度だけ深く息を吸った。

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