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廃墟で1

遠くのイベントに呼んで貰って行った時の話だ。

この日は、遠方の友人から撮影の依頼があり、車で三時間強かかる場所へ向かった。

受付を済ませて友人を待っていると、俺よりかなり年上のカメラマンが隣に来て、自然と会話が始まった。

「どこから来たんですか?」

「ちょっと離れたところからです。そっちは?」

「こっちは近いですよ。もう何年も来てます」

「毎年来てるんですか」

「ええ。まあ、習慣みたいなもんですね」

そんな他愛ない会話を繰り返していた。

ただ、話しているうちに、この人は妙に“話し慣れている”感じがした。

言葉の選び方が落ち着いていて、こちらの返事を待つ間の沈黙も、まるで計算されているようだった。

「今日はどんな作品を?」

「友人の依頼で。そっちは?」

「私は……まあ、いつも通りですよ。撮りたいものを撮るだけです」

「いいですね。自由で」

「自由、ですかねえ。どうでしょう」

そこで彼は少し笑った。

その笑いは柔らかいのに、どこか“含み”があった。

「最初の頃って、もっと違ったんですか?」

「ん? ああ……そうですね。最初の頃は、いろいろありましたよ」

「いろいろ?」

「ええ。仕事も、人も、環境も。慣れるまでは大変でした」

「大変って、どんなふうに?」

「……うーん、説明が難しいんですけどね」

彼は受付の奥をちらりと見た。

誰かを探しているようにも、ただ視線を逃がしているようにも見えた。

「まあ、昔の話です。今はもう、落ち着きましたよ」

「落ち着いた、ってことは……」

「ええ。いろいろ、片付いたんです」

“片付いた”という言い方が妙に引っかかった。

けれど、彼はそれ以上言葉を足さなかった。

「すみません、変な言い方しましたね。気にしないでください」

そう言って笑ったが、その笑い方はさっきより少しだけ硬かった。

この時点では、まだ何もおかしなことは起きていなかった。

ただ、彼の言葉の端々に、“過去に何かを経験した人の重さ”が、薄く滲んでいた。

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