表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/389

通勤で視えたもの7

「俺が……魅入られてる?」

自分でも驚くほど、声がかすれていた。

否定したいのに、口が勝手にそう返していた。

友人は特に表情を変えず、ビールの泡をじっと見つめながら言う。

「そうやろ? だってお前……気付いたら毎日見てるんやろ、あの神社。しかも“完全に振り向いたらどうなるか興味ある”って、自分で言うてたやん」

その言葉が、胸の奥にずしりと落ちた。

たしかに、怖いはずなのに、どこかで“見たい”と思っている自分がいる。

あの女性が、完全にこちらを向いた瞬間を。

それを、さっき友人に話したばかりだった。

友人は続ける。

声のトーンは軽いのに、言葉だけが妙に重い。

「だからさ、それ……ホンマに“お前の気持ち”なんか?」

ビールのグラスを置く音が、やけに響いた。

「俺には、そうは思えへんけどな」

その瞬間、背中に冷たいものがすっと走った。

まるで、誰かに肩を掴まれたような感覚。

自分の中にあった“興味”が、自分の意思じゃないかもしれない。

そんな考えが、初めてはっきりと形を持った。

友人は俺の顔をじっと見ていた。

冗談を言うときの目じゃない。

何かを確かめるような、静かで鋭い目。

その視線に、喉がひりつくほど乾いた。

「どうしたらいいんや」

気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。

自分でも驚くほど弱々しい声だった。

友人は落ち着いた口調で、まるで当たり前のことを言うように静かに答えた。

「通勤路、変えてみたらええやんか。

 お前ん家、最寄りまで別のルートあるやろ。そこからバス乗れば帰れるやん」

その瞬間、胸の奥で何かが弾けたようにハッとした。

そうか。

そんな簡単なことに、どうして今まで気づかなかったんや。

まるで、あの神社の前を通ることが“決まりごと”みたいに思い込んでいた。

いや、思い込まされていた……のかもしれない。

そう思った途端、背中に薄い寒気が走った。

グラスの烏龍茶を一気に飲み干しながら、

「せやな……1回変えてみるか」

と答えると、友人はニヤッと笑った。

「お前は相変わらず、現実の女にはモテへんのに、変なもんにはモテるな」

その軽口に、思わず吹き出しそうになった。

肩の力が抜けて、胸の奥の重さが少しだけ軽くなる。

ほんまに、いい友人を持ったものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ