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史跡めぐりにて8

3人で個室に通された。

扉が閉まると、外のざわめきが一段階遠くなり、

小さな空間にだけ、俺たちの呼吸が残った。

とりあえず飲み物を頼む。

ふたりは迷わずビール、俺は烏龍茶だ。

ツマミをいくつか注文し、 店員が去ったあと、軽くジョッキを掲げて乾杯する。

ビール組のふたりは、 喉が渇いていたのか、一気に半分ほど飲み干した。

その勢いを横目で見ながら、俺はお通しをつまむ。

ジョッキを「ダンッ」と置いた彼が、

待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。

「ほら、はよ話せや」

その声に、友人は小さく肩をすくめ、

さっき喫茶店で話した内容を、

順を追って彼に説明し始めた。

武将の影のこと。

カチャ…カチャ…という音のこと。

倒れた瞬間のこと。

ご住職の反応のこと。

彼は最初こそニヤついて聞いていたが、話が進むにつれ、その表情がじわじわと真剣なものに変わっていく。

「……は? 甲冑の武将?」

ビールのジョッキを持ったまま、彼の手がぴたりと止まった。

友人は黙って頷く。

個室の空気が、ほんの少しだけ重くなった気がした。

最後まで聞いた彼は、ゆっくりとジョッキを置き、

そのまま俺の方へ視線を向けた。

言葉にはしないが、「で、お前はどう考察したんや?」

その目がはっきりとそう言っていた。

俺はグラスを指で軽く回しながら、思っていたことをそのまま口にした。

「……彼の家系が影響してるのでは、って考えてる」

そう言うと、彼は一瞬だけ目を細め、すぐに納得したように頷いた。

「たしかに、お前の主君筋とその城主……揉めてたな。だからかもしれんな……」

そう呟き、残っていたビールを一気に飲み干した。

喉を鳴らす音が、個室の静けさに妙に響く。

「長い時間かけても、恨み辛みは消えにくいものなんやな」

俺がそう言うと、

友人は苦笑とも怒りともつかない表情で、

「それで切られたのなんか腹立つわ」

と、ぽつりと漏らした。

彼はその言葉を拾うように、

歴史好きの観点から因縁や背景を熱弁し始めた。

城主の性格、当時の勢力図、家同士の確執――

まるでその時代を見てきたかのように語る。

その横で俺は、静かにグラスを揺らしながら、友人の横顔をちらりと見た。

あの武将の影が、

もし本気で斬りかかっていたら…

もし、倒れたまま目を覚まさなかったら…

そう思うと、胸の奥にひやりとしたものが残った。

「……帰してもらえて、ほんま良かったな」

声には出さなかったが、心の中でそっとそう呟いた。

友人はまだ、自分がどれだけ危ない橋を渡ったのか、

気づいていないようだった。

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