史跡めぐりにて6
「その武将みたいなやつはどないしてん」
そう聞くと、友人は少し肩をすくめて、
あの時の動きを思い返すように手を動かした。
「腰に手を当てたと思ったらな……
思いっきり振り抜くような素振りしたんや」
「素振り?」
「せや。刀持ってるみたいな感じで。
ほんでな…なんでか知らんけど、
その瞬間、俺その場で倒れてもうてん」
「倒れた?」
「うん。そのまま後ろにバタンってな」
思わず身を乗り出してしまう。
「おいおい、頭とか打ってないんか? 大丈夫か?」
「医者にも行ったけど、特に問題なかったんやわ」
そう言う友人の声は、どこかまだ腑に落ちてないような響きだった。
「でな、その音聞いて出てきてくれたご住職さんに介抱してもろたんやけどさ」
「うん」
「なんか普通に、淡々と話聞いてくれてな。
俺が“武将みたいなん見た”って言うても、
驚くでもなく、否定するでもなく」
友人はコーヒーにようやく口をつけ、
少しだけ落ち着いたように息を吐いた。
「静かに読経してくれて、
“気をつけてお帰りください”って言われたねん」
その言葉を思い出したのか、
友人は腕を組んで、少しだけ背筋を伸ばした。
「なんか……あの感じ、妙に引っかかってな。
あの人、たぶん“分かってた”んちゃうかなって」
喫茶店のざわめきが、一瞬だけ遠のいたように感じた。
「不思議な体験やな」
そう返しながら、ふと頭の奥で何かが引っかかった。
友人が行った寺
あれは城主ゆかりの菩提寺だと言っていた。
友人は、俺が考え込んでいるのに気づいているはずなのに、あえて声をかけず、黙ってコーヒーを飲んでいる。
その沈黙が、逆にこちらの思考を深く沈めていく。
……そういえば。
昔、飲みの席で聞いたことがあった。
「お前の家って、元々お武家さんの家柄やんな?」
何気なく口にすると、友人は当然のように頷いた。
「そうやで。○○家に仕えてた家やぞ」
「あぁ、なるほど……だからか……」
思わず独り言のように呟いてしまった。
自分の中で、点と点が線になった感覚があった。
その瞬間、友人がガタンと椅子を鳴らして身を乗り出した。
「なんかわかったんなら言えよ!
気になるやろが!」
今にも胸ぐらを掴みに来そうな勢いだ。
目は真剣で、少し怯えているようにも見える。
その反応を見て、 あぁ、こいつ本気で怖かったんやな…… と、ようやく実感した。




