同窓会にて10
当日、友人宅に迎えに行く。
どこへ行くかは伝えていないのに、玄関先に立った友人の顔には、どこか緊張の色が浮かんでいた。
「おつかれ、乗りなよ」
「ありがとう」
そう言って助手席に乗り込んできた友人の手には、
缶コーヒーが握られていた。
「コーヒー、ありがとう」
受け取りながらエンジンをかけ、
隣県へ向けて車を走らせる。
最初のうちは、少し気持ちの整理がついたのか、他愛ない話に花が咲いた。
昔の部活の話や、最近見た映画の話。
笑い声も出た。
だが、廃墟の近くに差し掛かると、自然と口数は減っていった。
窓の外の景色だけが流れていく。
今日はカメラの機材ではなく、
簡単なキャンプ用品と水と食料、
そしてパラコードを10mだけ持ってきた。
車を停め、廃墟まで歩いていく。
草に埋もれた、獣道のような細い道を、
木漏れ日の中ゆっくり進む。
俺が前、友人が後ろ。
足音だけが続く。
程なくして廃墟が見えてきた。
友人は小さく呟いた。
「……これ、夜にひとりは無理だよな」
「許可は取れてるから中に入るぞ。
老朽化してるから気をつけろよ」
そう言いながら中へ入る。
中は、特に変わったところのない廃墟だった。
誰かが住んでいた形跡はあるが、探している友人の痕跡は見当たらない。
しばらく歩き回ったあと、友人は諦めたような顔で言った。
「……帰るか」
その瞬間、不意に吹いた風の中で、
“来てくれてありがとうな”
と、囁くような声が聞こえた。
二人して振り返る。
しかし、誰もいない。
風だけが通り抜けていった。
なんとも言えない空気のまま、
俺たちは静かに山を下りた。
車に戻り、廃墟仲間に「今から帰る」とだけメッセージを送って、ゆっくりとその場を離れた。
帰り道は、来た時とは違って、
どこか落ち着いた静けさが流れていた。
ラジオもつけず、ただ道路の白線だけが淡々と後ろへ流れていく。
友人の家に着くと、シートベルトを外しながら友人が言った。
「……ありがとうな。
なんか、気持ちの整理はついたわ」
そう言って、少しだけ軽くなったような表情で車を降りていった。
ドアが閉まる音が、夜の空気に静かに吸い込まれていく。
そのまま友人の背中が家の中へ消えるまで見送ってから、俺はゆっくりと車を発進させた。




