友人?5
中華料理屋に入ると、昨日と同じ油の香りがした。
鼻の奥に少しだけ残る、あの熱の匂い。
席も昨日と同じ場所に案内された。
妙な偶然やな、と思いながら席に着く。
注文を済ませる。
俺は昨日と全く同じもの。
彼は、好物の蒸し鶏にラーメンのチャーハンセット。
昨日は売り切れていた蒸し鶏が、今日は普通にあるらしい。
料理が運ばれてくるまで、友人は何も言わなかった。
メニューを見ているわけでもなく、スマホを触るでもなく、ただ、ぼんやりとテーブルの木目を見ていた。
とりあえず飯を食うか、と思った矢先、
友人がぽつりと言った。
「実はな……昨日事故って、車修理中でな。
昨日は車で迎えになんて無理やってんよ」
箸が止まった。
「えっ?大丈夫なんか?
てか、昨日お前来てたけど……冗談やんな?」
友人はゆっくり首を振った。
「いや、追突されただけやけど……
勢いよく突っ込まれてな。頭打ってもうて、
救急車で病院行ってる時間やねん、お前が飯食うてる言うた時間な」
言葉が喉の奥で引っかかった。
「たしかに、お前と飯行きたいな思ってたけど……
俺のスマホに、お前にかけた履歴ないぞ」
そう言って、友人は俺のスマホを指さした。
「ちょっと、お前のスマホ確認してみ」
恐る恐る履歴を開く。
昨日の昼過ぎの時間帯
そこにあるはずの着信が、どこにもない。
「あれ……?
お前からかかってきたはずやねんけど……」
そう言いかけた時だった。
「兄ちゃん、昨日ひとりで2人分食べて帰ったやろ?」
店のおばちゃんが、水を置きながら何気なく言った。
「派手に食べてたから、よう覚えてるよ」
頭の中が真っ白になった。
えっ……?
俺は誰と飯に来て、
誰の分を食って帰ったんだ……?
混乱していると、
友人が小さく息を吐いて言った。
「……だから、さっき言われて怖かったねん」
その声は、昨日の“彼”とはまるで違う温度だった。
本当に、あれは誰だったんだ。
俺にしか見えない、
友人の姿をした“何か”は、一体なんだったんだろうか……。




