友人?1
土曜の昼過ぎ、スマホが震えた。
この時間に友達から電話が来るのは珍しい。
「よう、夜飯行こ」
「おう、唐突やな」
「いや、行こ」
「ええけど何食うんや?」
「前行った中華行こー」
「ええよ。時間はいつもくらいか?」
「せやで」
「なら○○駅に迎えに来てな」
「おう」
通話が切れたあと、しばらく画面を見つめた。
昼過ぎの光が、カーテン越しに部屋の床を四角く照らしている。
妙に押しの強い誘い方だった。
普段ならもっと曖昧な言い方をするやつなのに。
まぁ、いいか。
そう思いながら上着を羽織る。
袖を通すと、昼の温度がまだ残っていて、
朝の冷たさとは違う、少し緩んだ空気が肌に触れた。
玄関の棚に置いたBluetoothイヤホンを手に取る。
ケースを開けると、白いLEDが静かに点滅して、
小さく息を吸うみたいに光った。
耳に押し込むと、外の音が一段階遠くなる。
その静けさが、逆に外へ出る背中を押した。
今日は歩いて駅まで行こう。
ちょうどいい時間になるし、腹も減るだろう。
玄関を開けると、昼過ぎの光が少し黄色かった。
影は短くて、地面に貼りつくように落ちている。
風は弱いのに、どこか乾いた匂いがした。
ポケットの中でスマホを開き、
最近よく名前を聞く若いシンガーソングライターの曲をいくつか並べる。
指先でスクロールすると、
ジャケットの色が淡く流れていく。
その中から、今の空気に合いそうな曲をひとつタップした。
軽いギターの音が耳に入ってくる。
昼過ぎの光と混ざって、
世界の輪郭が少しだけ柔らかくなる。
歩き出すと、
アスファルトの上で靴底が乾いた音を立てた。
遠くで子どもの笑い声がして、
どこかの家の昼ごはんの匂いが風に混ざる。
駅までの道はいつも通りで、いつも通りじゃないのは、“あいつがこんな時間に誘ってきた”ということだけだった。




