朝挨拶する人は?2
いつもと変わらない朝だった。
家の近くのバス停から乗り、駅で電車に乗り換え、
会社の最寄り駅に着いて歩き始める。
その道沿いにあるケアホームの前で、ふと足が止まった。
年配の女性が、入口横の椅子に腰掛けていた。
背筋を伸ばし、膝の上にきちんと両手を揃え、
通り過ぎる人たちに向かって、にこにこと笑いながら小さく手を振っている。
朝の光の中で、その笑顔だけが妙に明るく見えた。
何の気なしに、こちらも挨拶を返した。
女性は嬉しそうに、少し深めに頭を下げた。
昨日までは見なかった光景だった。
ただ、ケアホームなら早起きの人もいるだろうと思いながら歩き出す。
けれど、周りの人たちは誰一人として彼女に目を向けなかった。
スーツ姿の男性も、イヤホンをつけた学生も、
まるでそこに誰も座っていないかのように、
視線を逸らすでもなく、完全に“存在しないもの”として通り過ぎていく。
その無関心さが、少しだけ胸に引っかかった。
挨拶を返した自分が、逆に浮いているような気さえした。
会社に着けば、仕事はいつも通りだった。
メールを返し、資料を作り、会議に出て、
特に変わったこともなく時間が過ぎていく。
ふと、朝のあの女性のことが頭をよぎった。
なんであんなところに座っていたんだろう。
そう思った瞬間はあったが、
すぐに仕事の忙しさに押し流されて、意識の端から消えていった。




