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骨董市のお茶碗後日譚

ご住職は茶碗を包み終えると、

「本日はこれで失礼いたします」

とだけ言い、袈裟の裾を揺らしてサッと帰っていった。

扉が閉まったあと、部屋に残された空気が、妙に軽く感じた。

けれど同時に、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような、なんとも言えない喪失感が広がった。

それでも、その日を境に、あの変な音は一切聞こえなくなった。

週末。

お礼を伝えるために、お茶菓子を持って寺を訪れた。

山門をくぐると、

ご住職がにこやかに迎えてくれた。

「貴方は相変わらず、変わった縁を持つことが多いようですね。 今回も、曰くのある品ではありました」

そう言われ、胸がざわつく。

「しかし、貴方の中にある“危険を感じる気持ち”と“強い意志”で、事なきを得られましたね」

「えっ……?」

思わず聞き返すと、ご住職は静かに続けた。

「貴方からの電話を受けた日、

 電話口の奥からずっと、

 女性の声で “邪魔をするな”

 という声が聞こえておりました」

背筋がひやりとした。

あの日、部屋は不気味なほど静かだった。

なのに、ご住職には“騒がしい”と言われた。

「貴方は古い物を好まれる。

 これからも、こういう縁があるかもしれません。

 どうか“恐怖心”を忘れないようにしてください」

その言葉は、叱るでも諭すでもなく、

ただ事実を告げるように静かだった。

寺を出るとき、

ふと、茶碗をもう一度だけ見たいという気持ちが胸をよぎった。

ほんの一瞬、

足が本堂の方へ向きかけた。

だが、

その気持ちを振り切り、

山門へと歩いた。

風が秋の匂いを運んでくる。

空はよく晴れていて、

山門の影が長く伸びていた。


「……また、お世話になるかもな」


そう小さく呟きながら、

車へと向かった。

秋晴れの空は澄んでいるのに、

胸の奥にはまだ、

黒い茶碗の“重さ”がわずかに残っていた。

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