骨董市のお茶碗6
ふと、以前の手鏡や掛け軸のことが脳裏をよぎった。
あの時も、気づけば心を掴まれていた。
今回も、どこか似ている。
どうするか…。
以前お世話になったご住職に連絡すれば、
きっと茶碗は手放すことになる。
それは分かっている。
だが、手放すには惜しい。
黒い茶碗は、部屋の隅にただ置いてあるだけなのに、
視界の端に入るたび、胸の奥がじんわりと満たされる。
あれを失うのは、
自分の一部を削られるような気がした。
しかし、部屋の変な音は嫌だ。
その葛藤が、胸の中でずっと渦を巻いていた。
そうやって悩んでいるうちに、
二日、三日と過ぎてしまった。
音は日に日に酷くなった。
最初は コト、コト と小さな音だったのが、
今では ゴトッ と、
明らかに“何かが動いている”ような音に変わっていた。
夜中、暗い部屋でその音が鳴るたび、
背筋の奥がじわりと冷える。
「……これは、まずいかもしれない」
頭ではそう思うのに、
胸の奥では別の声が囁く。
手離したくない。
スマホを手に取り、
ご住職に電話しようとする。
だが、画面に指を伸ばすたび、
気持ちがふっと削がれる。
まるで、
“やめておけ”
と誰かに肩を押されているようだった。
これは…。
そう思った瞬間、
以前ご住職に言われた言葉が蘇った。
「あなたは、こういう物に魅入られやすいのです。気を付けなさい」
胸の奥が、ひやりとした。
その言葉が、今になって重く響く。
気力を振り絞り、スマホを握り直す。
指先が震える。
それでも、
画面の“通話”の文字を押した。
ご住職に電話をすることを、
ようやく決意した。




