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骨董市のお茶碗5

茶器を買うことにした。

一目惚れ

そう言えば聞こえはいいが、

実際はもっと強い、

手離したくないという感情が、

指先から腕の奥へとじわじわ広がっていった。

その日は、他の露店をどれだけ見ても、

何ひとつ心に引っかからなかった。

茶碗の黒だけが、

視界のどこかにずっと残っていた。

家に帰ると、

玄関を閉めるより先に茶碗を取り出した。

部屋の一角を空け、

座布団を敷き、

その上にそっと置く。

黒い茶碗は、

そこに置いただけで部屋の空気を変えた。

光を吸い、

影を濃くし、

部屋の温度をひとつ下げたように感じた。

「……いいな」

思わず口元が緩む。

眺めているだけで、

胸の奥がじんわりと満たされていく。

気づけば、窓の外は夕方の色に変わっていた。

慌てて夕飯の買い物に出たが、

帰ってきても茶碗の黒が頭から離れなかった。

数日は、特に何もなかった。

ただ、茶碗を飾って三日目の夜。

部屋のどこかで、

コト……

と小さな音がした。

最初は気のせいだと思った。

家の軋みか、外の風か、隣の生活音か。

そう思い込もうとした。

だが、翌日も、

その次の日も、

音は夜になると必ず鳴った。


コト……コ……


壁でもない。

床でもない。

外でもない。

部屋の中の、

どこか。

寝れないほどではない。

けれど、

暗い部屋の中でその音がすると、

胸の奥がじわりと冷える。


「……嫌だな」


そう呟きながらも、

音の正体だけはどうしても掴めなかった。

ただひとつ、

どうしても気になるのは

茶碗を飾ってから、ということだけだった。

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