骨董市のお茶碗4
良かったらお手に取られてみませんか?
店主にそう言われた瞬間、胸の奥がふっと軽くなるような、
逆に引き寄せられるような感覚があった。
「いいんですか?」
そう聞くと、店主は柔らかい笑顔で「どうぞ」と頷いた。
茶碗を持ち上げた瞬間、
ひんやりとした陶器の冷たさが手のひらに広がる。
その冷たさの奥に、ずっしりとした重みがあって、
思わず口元が緩んだ。
黒い表面は、手の中にあるのに光を返さない。
まるで、握っている自分の影だけを吸い込んでいるようだった。
ゆっくりと元の位置に戻そうとする。
けれど、指先が離れない。
離したくない、という気持ちが、
自分の意思とは別に手の中に残っていた。
振り切るようにして棚に戻すと、
店主はニコニコと笑っていた。
「持つ人を選ぶ茶器は多いですからね。
今回、いかがですか?
お値段でしたら、少しは勉強させていただきますよ」
その言い方が妙に自然で、
まるで“あなたが持つのが当然”と言われているように聞こえた。
思わず値札を見る。
茶器にしては、かなり安い。
安すぎる、と言ってもいいくらいだった。
けれど、手持ちは心もとない。
買えるかどうか、微妙なところだ。
迷っていると、
店主が電卓をこちらに向けてきた。
「これなら、いかがですか?」
そこには、さっきよりさらに安い数字が並んでいた。
値引きというより、“手放したい”ような金額だった。
「……いいんですか?」
そう尋ねると、
店主は変わらず笑顔で、
「大丈夫ですよ」
とだけ言った。
その“笑顔”が、さっきより少しだけ、目の奥の温度が読めなかった。




