骨董市のお茶碗3
漆黒の色に照りがついた茶碗から、目が離せなくなった。
濡れたような黒色の表面は、光を反射しているはずなのに、まるでそこにある光を吸い込んでいるように見えた。
棚の上に置かれているだけなのに、
その茶碗の周りだけ、空気が少し沈んでいる。
人の声も、風の音も、そこに近づくと薄くなる気がした。
思わず足を止めて、しげしげと眺めていると、
「いかがですか?」
と声をかけられた。
はっとして顔を上げると、
少し年配の、眼鏡をかけた男性が立っていた。
柔らかい表情なのに、
目の奥だけ、どこか温度が読めない。
「あ、いや……あまりにいい茶器だったので。思わず眺めてしまいました。すみません」
そう言うと、店主は小さく笑った。
「いえいえ。若い方が茶器に興味を持ってくださるのは、嬉しいことですよ」
その声は穏やかだったが、
どこか“こちらの反応を待っている”ような間があった。
「これは……どういう茶碗なんですか?」
自分でも驚くほど自然に、そう聞いていた。
店主は茶碗に目を落とし、
指先で縁をそっとなぞるような仕草をした。
「黒いでしょう。けれど、ただの黒じゃないんです。
光を弾かず、吸うように見えるでしょう?」
まるで、こちらが感じていたことをそのまま言われたようで、胸の奥が少しざわついた。
「ええ……なんというか、目が離せなくて」
「そうでしょう。
この茶碗はね、“見つける人”が限られているんですよ」
店主はそう言って、ゆっくりとこちらを見た。
笑っているのに、目だけが笑っていなかった。
「あなたみたいに、足を止める人は多くないんです」
その言葉が、妙に耳に残った。
褒められているのか、選ばれているのか、
判断がつかないまま、茶碗から視線を外せなかった。




