イベントで視えたもの7
個室に案内され、二人で注文を済ませた。
酒はお互い車なので頼まないが、
肴の好みは似ているから、メニューを選ぶ時間だけはいつも少し楽しい。
料理が来るまでの間、
俺はさっきの写真を改めて確認した。
ブレはない。
露出も問題ない。
構図も、いつも通り。
……ただ、ピントの位置だけが微妙に違う。
本来なら、
顔や明暗のはっきり出る部分に吸い寄せられるように合うはずなのに、
その写真だけ、
“そこじゃない”場所に合っていた。
画面を拡大しながら、友人にも見せて話す。
「なぁ……これ、なんか変じゃない?」
友人はしばらく黙って画面を見つめていた。
その沈黙が、個室の空気を少しだけ重くする。
そして、静かに言った。
「……いや、ここになんかおったんやろ?」
その言い方があまりにも自然で、
逆に背筋が冷えた。
「だってさ。
ここにピント合うんなら、
ちょうどこの子を“覗き込む”みたいな位置に目が来るやろ?」
指で示された位置は、
レイヤーさんの肩のすぐ上。
人が立つには近すぎる距離。
でも、写真のピントは確かにそこに吸い寄せられている。
ゾッとした。
言われれば、たしかにそうだ。
顔でも衣装でも背景でもなく、
“そこ”にだけピントが合っている理由が、
他に思いつかない。
友人は続けた。
「お前、あの子と話してる時……
なんか後ろ、気にならんかった?」
思い返す。
確かに、あの時、風の音が一瞬だけ途切れたような気がした。
でも、それが何かは分からない。
ただ、
写真の中の“ピントの位置”だけが、
静かに、確実に、何かの存在を示していた。
たしかに、本人もなかなか大変な人間関係を抱えているようなことを言っていた。
あの曇った笑い方も、どこか引っかかったままだ。
……何か良くないものでも拾ったのだろうか。
そんな考えが一瞬よぎる。
でも、確かめようもないし、言葉にしたところで答えが出るわけでもない。
とりあえず、撮った写真のデータをまとめて送る時に、
「近くに縁切りの神社あるから、気が向いたら行ってみるとええで」
と軽く添えてメッセージを送った。
深刻にならないように、あくまで雑談の延長みたいな文面で。
送信ボタンを押したあと、
ふっと肩の力が抜けた。
「人は色々あるなぁ」
友人がそう言いながら、
運ばれてきた肴に箸を伸ばす。
カツオのタタキの香ばしい匂いが、
個室の空気を少しだけ明るくした。
「ほんまにな」
俺も箸を取り、
二人で黙々と肴を味わう。
外のざわめきは遠く、
店内の灯りは柔らかく、
さっきまでの違和感が少しだけ薄まっていく。
次に会う時、
あの子の雰囲気が少しでも戻っていたらいい。
そんなことをぼんやり思いながら、
夕方の疲れと一緒に、ゆっくりと肴を噛みしめた。




