イベントで視えたもの5
ある程度お互い声を掛けながら、
数人のレイヤーさんを撮らせてもらい、
軽く交流を続けていた。
昼前の曇り空の下で、
人の動きはゆっくりで、
会話も柔らかい。
そんな空気の中、ふいに後ろから声をかけられた。
「○○さん?」
振り向いた瞬間、
胸の奥がわずかに沈んだ。
以前撮影をさせてもらったコスプレイヤーさんだった。
顔も声も確かに覚えている。
なのに、どこか“別の人”みたいに見えた。
「あ、おぉ、久しぶりー。元気にしてたのー?」
自然に返事をしたつもりだったが、
自分の声が少しだけ遅れて聞こえた気がした。
向こうは笑って、近況報告みたいな流れになる。
話している内容は普通だ。
でも、違和感は会話の合間にじわじわ広がっていく。
以前と、雰囲気がだいぶ違う。
髪型でも、メイクでも、体型でもない。
もっと曖昧で、
“その人がその人である感じ”みたいな部分が、
どこか噛み合っていない。
「なんかあった?」
そう聞くと、
「まぁ、色々ありまして……」と苦笑いしながら話してくれた。
その“色々”の内容も普通だった。
でも、違和感は消えない。
むしろ、言葉を重ねるほど濃くなる。
自分でも理由が分からない。
ただ、
“前に会ったあの子”と
“今目の前にいるこの子”が
同じ線で繋がらない感じがした。
そこへ、カメラマンの友人がふらっと近づいてきた。
「おぅ、ナンパか?」
「いやいや、失礼だろ?」
そう返した瞬間、
友人がほんの一瞬だけ顔を顰めた。
その表情は、
風に紛れるほど小さかったのに、
妙にくっきりと胸に残った。
「ん?」と思ったが、
特に聞かず、
そのままレイヤーさんと少し話して、
撮影をさせてもらい、軽く挨拶して別れた。
歩き出したところで、友人がボソッと言った。
「あの子、お前と前に撮影行ったって子やんな?
……聞いてた感じと違うねんけど、あの子であってんの?」
その声だけが、
昼前の曇り空よりも重く響いた。




