イベントで視えたもの3
受付前は、想定していたよりも人が少なかった。
昼前の時間帯なのに、列は短く、
会場のざわつきもまだ遠くにあるような静けさだった。
「良かったな」
カメラバッグを背負い直しながら、
スマホでQRコードを開く。
肩にかかるストラップの重みが、
ようやく“撮影に来た”という実感をくれる。
「そうだな」
友人の返事を聞きながら、
受付のスタッフにQRコードをかざす。
機械の読み取り音が、
湿った空気の中でやけにクリアに響いた。
注意事項や撮影範囲の説明を受ける。
今回は岸壁沿いのエリアがメインらしい。
海の近くなのに、山からの吹きおろしのせいか潮の香りはほとんどしない。
風だけが、どこか乾いたような、冷たいような、
その中間みたいな温度で肌を撫でていく。
「ぼちぼち準備するか」
カメラバッグを開けながら呟くと、
友人が首元を押さえながら言った。
「思ったより冷えるな」
「せやな」
その短い会話が、
昼前の曇り空の下でゆっくりと沈んでいく。
レイヤーはまだほとんど姿を見せていなかった。
その代わり、カメラマンだけが妙に多い。
周囲では、
三脚を肩にかけて歩く人、
レンズを拭きながら立ち止まる人、
バッグの中身を確認している人。
人は多いのに、なぜか静かだった。
イベントが始まる直前の、
あの独特の“間”だけが漂っていた。
人は多いのに、なぜか静かだった。
そのアンバランスさが、
昼前の曇り空と妙に馴染んでいた。




