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ダーツの帰りに7
夜中、不意に目が覚めた。
呼吸はできるのに、身体がまったく動かない。
まるで金縛りにかかったような、重い膜に包まれた感覚だ。
胸の奥だけが妙に熱くて、手足は自分のものじゃないみたいに沈んでいる。
豆電球の薄い明かりの中、視界の端に何かが立っているのが見えた。
布団の足元に、見知らぬ人影がいる。
小さいな…
そう思った瞬間、頭のどこかが冷えた。
状況を理解しようとした途端、その黒い影がゆっくりこちらに近づいてくる。
嫌だ。
強く念じても、影は止まらない。
足音はしない。ただ、影だけが滑るように距離を詰めてくる。
何をするでもなく、ただこちらを覗き込むように顔を近づけてきた。
輪郭はぼやけているのに、視線だけがはっきりと分かる気がした。
「……ひっ」
声にならない声が喉の奥で震えた瞬間、意識がふっと途切れた。
次に気づいたときには、部屋は朝の光で満たされていた。
スマホを見ると、仕事に行く時間ギリギリだ。
「……やば」
慌てて準備をして家を飛び出す。
通勤の道すがら、あの影のことが頭から離れない。
どこで拾ったんだ、あんなもの。
ため息を吐きながら、ふと変な考えが浮かぶ。
次出てきたら、とりあえず家賃払えって言うてみるか。
そんな馬鹿なことを思いながら、いつも通り仕事に勤しんだ。




