ダーツの帰りに6
気になり始めると、なかなか頭の中から振り払えない。
あの影は、ただの見間違いだ。時間的にも子供がいておかしくない。
そう何度も自分に言い聞かせるのに、胸の奥に残ったざらつきだけは消えてくれなかった。
車を走らせながら、信号待ちのたびにふと入口のガラス戸を思い出す。
街灯に照らされて輪郭だけ浮かんだ、あの小さな影。
こちらを見ていたような気がした瞬間だけ、妙に鮮明だ。
……考えても仕方ない。
そう区切りをつけるように深く息を吐き、家に帰ることにした。
ガチャッと鍵を回してドアを開ける。
途端に、しん、とした静けさが全身にまとわりつく。
外の空気と違って、家の中の静けさは湿り気がなく、音のない空洞みたいだ。
一人暮らしも長いし、この静けさには慣れているはずなのに、さっきまで人の声や食器の音に囲まれていたせいか、今日はやけに広く感じる。
靴を脱ぐ音が、やけに大きく響いた。
その日は早めに風呂に入ることにした。
服を脱いで湯船に浸かると、秋の夜の冷えがじわじわ溶けていく。
湯気がゆらゆら揺れて、浴室の白いタイルに淡く映る。
目を閉じると、唐揚げの匂いと店のざわめきがまだ微かに残っている。
その奥に、ガラス戸の外の暗がりがふっと浮かんだ。
「……疲れてるだけだな」
小さく呟いて、湯に沈む。
気づけばいつもより長風呂になっていた。
風呂上がりの身体がまだ温かいまま布団に入り、電気を消す。
部屋が一瞬で闇に沈む。
その暗さが、さっきの影の輪郭と同じ色をしている気がして、ほんの一瞬だけ胸がざわついた。
けれど、睡魔は容赦なく襲ってきた。
まぶたが重くなり、意識がゆっくり沈んでいく。
影のことを考える余裕もないまま、深い眠りに落ちていった。




