視えちゃったもの4
「神社に上がる道登ってるとよ、ガサガサって草木が揺れる音がするんだよ」
彼は手振りを交えて、その時の様子を思い出すように話す。
「いやいや、そら草木が揺れたら音するやろ。風とかでも揺れるし」
と俺が言うと、
「いやいや、違うんだよ」と、すぐに返してきた。
「風とかの揺れじゃなくてよ……草木を“かき分ける”みたいな感じでさ。
ザザッ、ザザッて、誰かが通ったみたいな音なんだよ」
そこまで言って、彼は少しだけ眉を寄せた。
「俺も周り見たんだけどよ、特に何も見えないんだよな。
だからまあ、気のせいかなって思って、そのまま上がって行ったんだよ」
彼はカップを持ち直し、ひと口飲んでから続けた。
「ただな……今思えば、この時点でやめときゃ良かったんだよ。引き返すべきだったんだ」
その言い方は、後悔というより“事実としてそう思う”という静かな響きだった。
俺は「うん?」とだけ相槌を打ち、続きを促すでもなく待つ。
彼が話しやすいように、ただ聞く姿勢だけを保つ。
彼はしばらく指先でカップの縁をなぞり、
ゆっくりと息を吸って、また口を開いた。
彼は、昨日のことを思い出したのか、急にガタガタと震えだした。
カップを持つ指先まで細かく震えていて、見ているこっちが戸惑うほどだった。
落ち着くまで待つしかない。
けれど、彼がここまで動揺しているのを見るのは初めてだ。
普段は何を見ても「またかよ」くらいの顔をするやつなのに。
一体、何を見たんだ?
そう思っていると、彼はようやく呼吸を整え、
静かに口を開いた。
「帰りしなによ……」
言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。
「あそこって、帰りの道、全部見えるだろ?
駐車場から下に向かって、ずーっと道が伸びてるやんか」
俺は「うん」とだけ返す。
「そこでな……白い着物みたいなもんに身を包んだ“なにか”を見たんだよ……」
彼は“人”とは言わなかった。
“なにか”と、はっきり言った。
カップの中のコーヒーが、彼の震えに合わせて小さく揺れていた。




