視えちゃったもの3
おずおずと話し始めた彼に、俺は「うん」「で?」と適当に相槌を打ちながら、
続きを待つことにした。
どうやら、また何か不思議なものでも見たのだろうか。
そんな予感だけが、言葉の端々から伝わってくる。
「昨日の夜な」と彼は言った。
どうやら、女の子と一緒に山へ夜景を見に行ったらしい。
地元ではわりと有名な夜景スポットで、俺も何度か行ったことがある場所だ。
街から車で一時間もかからないし、夜でも人が途切れない。
「駐車場着いた時な、車が何台か停まっとってさ。
カップルも何組かおったわ」
彼はその時の様子を思い出すように、指先でカップの縁をなぞった。
「まあ、普通やん?」と俺が言うと、
「せやねん。ほんまに普通やってん」と彼はうなずいた。
そこまでは、ただの夜景デートの話だ。
特に変わったところもなく、よくある休日の過ごし方にしか聞こえない。
俺はコーヒーを一口飲みながら、彼が次に何を言うのかを待った。
「んでな、夜景は綺麗に見れたんだよ…」
彼はそう言って、少しだけ表情を緩めた。
どうやら最初は普通に楽しんでいたらしい。
「それでな、ちょっといい雰囲気にしたいと思って、
山の上の神社の方に向かおうって言ったんだよ」
ああ、あそこか。
駐車場から少し上に登ったところにある、小さな神社。
夜景スポットとしては定番で、俺も何度か行ったことがある。
「ちょっと上に上がったとこにある神社から見ると、
さらに圧巻の夜景になるんだよな。
昨日は天気も良くて空気も澄んでたしよ」
彼はその時の景色を思い出すように、ゆっくりとうなずいた。
そこまでは、ただのデートの延長だ。
むしろ順調すぎるくらいの流れに聞こえる。
だが、彼はそこで言葉を切り、少しだけ視線を落とした。
「でもな、それが間違いだったのかもしれない」
その一言だけ、妙に重かった。
俺はコーヒーを一口飲み、
「ほう」とだけ相槌を打って続きを待つ。
彼はカップを指先で回しながら、
何かを思い返すように、ゆっくりと息を吸った。




