刀の残り香後日譚
あの日から、少し時間が経った。
体調はすぐに戻ったけれど、
展示室で感じたあの鉄錆の匂いだけは、
時々ふっと思い出すことがあった。
友人とは、後日改めて昼飯を食いに行くことになった。
近くのファミレスで席に着くと、
友人はまだ少し心配そうにこちらを見ていた。
「ほんまに大丈夫なんか?」
「大丈夫やって。あの日はちょっと腹の調子悪かっただけや」
そう言うと、友人は安心したように笑った。
俺はうどんを、
友人はハンバーグを注文し、
二人でドリンクバーのコップを持って席に戻る。
「そういや、これ買っといたで」
友人が鞄から取り出したのは、
あの特別展示のパンフレットだった。
「車出してくれたしな。
ガソリン代代わりや。
どうせ受け取らんやろと思って」
「……ありがとな」
ページをめくりながら、
学生の頃みたいに身を乗り出して話した。
「あれ綺麗やったよな」
「これも良かったわ」
「刃文がええよなぁ」
そんな他愛ない会話を続けていると、
友人の指があるページで止まった。
「これや。
お前がしんどそうになった時の刀」
写真の下に、短い説明文があった。
この刀は、かつて処刑に用いられたと伝わる。
その一文を見た瞬間、
胸の奥がひやりとした。
あの強烈な鉄錆の匂い。
鼻の奥に刺さるような、
古い血のような、乾いた金属のような匂い。
友人は、あの日も今も、
その匂いをまったく感じていない。
「……そうなんやな」
自分でも驚くほど小さな声が出た。
「どうしたん?」
「いや、なんでもない。
ただ……なんか、切ないなと思って」
理由は分からない。
分からないままでいいのかもしれない。
ただ、
あの瞬間に感じた匂いだけが、今でも時々、ふっと思い出される。
それだけの話。




